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次の瞬間、視界から標的が消えた。それを認識した瞬間に反射的に身を捻ってはいたが、刹那のうちに左肘から下がそっくり失われていた。
痛みは、ない。
痛覚は、狩人として生まれ変わった最初期に切り捨てた。傷を負った痛みで一瞬でも動きを止めれば、次の瞬間には「私」という存在自体がこの世から失われてしまうから。
故に、左腕を取られた、という感触だけを信じて、振り向くと同時に片腕だけで杭打ち機を構えなおす。
数歩分の間合いを取った標的の口から、ぼとりと、一瞬前まで私の腕だった肉の塊が落ちる。
標的は、すれ違いざまにその吸血牙で私の左腕を噛み砕いたのだ。私から武器を奪い、同時に己の体から刻一刻と失われつつある生命力を、血液から吸い取ろうとしたに違いない。標的にとって、人の血液とは己の欲を満たし、身を癒す甘露であるはずだから。
だが。
「あ、が……、ああぁっ!」
標的が上げたのは言葉にならない苦悶の声。牙持つ口から吹き出すのは黒々とした煙。当然だ、この体を流れる血は既に人のものではない。神の祝福を受けた聖血は、この世にあってはならない穢れを、ことごとく焼き尽くす。
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