いたみ

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 ああ、どうにも、やりづらい。  相手が吸血鬼である限りは、迷うこともない。吸血鬼というだけで、私が杭を打ち込むには十分だ。どれだけ人間らしく装ってみせても、吸血鬼の精神構造は人のそれとはまるで異なっている。吸血鬼が人間に餌として以上の存在意義を認めていない以上、私は、人の命と心を守るために杭を打つ。それが、かつて人間であったものだとしても――変化が不可逆である以上、狩人たる私が迷うわけにはいかないのだ。  しかし、目の前の少女を、同じように割り切ることはできない。  マノン。ある町に根を張っていた吸血鬼を焼却した際、己も狩人になりたいのだと宣言した少女。吸血鬼に狙われた友人の無事を祈りながら、己の無力を悔やみ、吸血鬼と戦う力を望んだ少女。  すぐに追い返すべきではあったし、事実何度も試みたが、元より身寄りがなく、町にも居場所がないと訴える彼女を、そのまま捨て置くこともできなかった。  結局、私の狩りの邪魔をしないという条件で、マノンの同行を許してしまっている。
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