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彼女が平穏に暮らせる土地を見つけたならすぐにでも置いていきたいところだが、何しろ私は吸血鬼狩人の身であり、吸血鬼が根を張る土地を渡り歩くのが生業だ。また、身寄りのない少女を任せられるほど信頼できる友人や仲間もいない。
つまり、妙案が浮かぶまで、今しばらくは娘を思わせる年頃の少女を連れて歩かなければならない、というわけだ。
「マノン」
「は、はいっ」
名前を呼ぶと、マノンは弾かれたように顔を上げる。夜闇に浮かぶ彼女の輪郭と、その中で星のように煌く瞳は酷く儚げで、今にもかき消えてしまいそうに見える。
その面影が。私の腕の中で命の灯火が吹き消えた娘のそれと重なる。
途端に、胸の違和感が増して、息苦しさを覚えるのだ。
「……仕事はこれで終わりです。宿に帰りましょうか」
息苦しさを抑えこんで言葉を紡げば、マノンの表情がぱっと明るくなる。
「はい、先生!」
「先生、という呼び方はやめてくれませんかね……」
私は、マノンを吸血鬼狩人にする気はない。これだけは絶対に変わらない、と当人に言い聞かせているにもかかわらず、彼女は「先生」という呼称を改める気はなさそうだ。
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