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だが、吸血鬼狩人とは、人間を辞めることに他ならない。
人の手に余る化物に対抗するため、祝福という名のもとに肉体を日々改造し、体内の血液を聖血と入れ替え、生まれながらのものを一つ一つ丁寧に削ぎ落とし、やっと吸血鬼と対等に戦える。
マノンにその覚悟があるようには見えなかったし、あったところで、私は彼女を狩人に仕立てることはない。決して。
このような思いをするのは、私一人で十分だ。
私のような人間がこれ以上現れないように、私はこの身が滅びる瞬間まで杭を打つのだ。
だから。愚かな望みなど捨てて、どうか――。
つまらない感傷を首の一振りで振り払い、踏み出した途端、不意に視界が傾いだ。どうやら、少しばかり血を失いすぎていたらしい。
右手でぐらつく頭を押さえて膝をつく。眩暈が止むのを待ってからゆっくりと顔を上げると、目の前にちいさな手があった。
見れば、マノンが恐る恐るといった様子で、私に手を差し伸べていたのであった。
「先生……、酷い顔色です。どうか、お手を」
不意に、その手を振り払ってしまえばいい、と気づいた。
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