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それは、人間の大きな手でした。
「蛍!」
人間の女の人が葉をどかして、わたしを見つめます。
「アミちゃん! リナちゃん! 来て来て! 蛍だよ!」
女の人に呼ばれた、人間の子どもも来てしまいました。近所の子みたいです。
人間といえば、汚い空気を吐く自動車を川辺に停めて、長い時間をかけて煙草を吸う動物です。あの汚い空気のせいで死んでしまったきょうだい達もいます。
どうしましょう。わたしも死んでしまうのでしょうか。
「……ちょっと、アミちゃん。会うたびにカンチョーするのはやめてくれるかな。私は一応これでも嫁入り前の娘で、あなたは一応レディなんだから」
人間の子どもは、身軽に跳びはね、明るく笑います。
女の人は頬を膨らませましたが、「見て見て」とわたしを指差します。
「蛍だよ。こんなところにもいるんだね」
「おしりがひかってる!」
「それ、なんのはっぱ?」
「ラディッシュだよ。二十日大根」
「ほたるさん、かわいいね」
……きょうだい達以外に可愛いと言われたのは、初めてです。あの腐れ縁の奴だって、一度も言われないのに。
「蛍さん、どうしようか」
女の人が、子どもに訊きます。
子どもが答えます。
「このままにしとく」
……よかった。死なずに済みそうです。
そのときでした。急にうるさくなったのは。
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