episode 2

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episode 2

夏休みに入りあっという間に3週間が経った。 友人たちが練りに練った夏休み満喫プランは、いまだに何一つ実行されていない。 今年の夏はどこかおかしい。 長すぎる梅雨に豪雨と台風で、ことごとく予定が潰れている。 天気予報を見ると、まだしばらく先まで傘マークが続いている。 天気予報の終わったテレビを消し、今日の分の課題に手を付けているとグループメッセージが入ってくる。 【もうさぁー!なんなんだよ!今年呪われてんじゃないの?!】 というメッセージの後に怒った顔のスタンプ。 予定では今日はBBQをして夜には花火を楽しむ予定だったはずだ。 夏休みを一番楽しみにしていた友人は相当にキレているらしい。 【いい機会だと思って、大人しく家で勉強してなよ。受験生なんだから】 悠斗が返すとすぐに、ピコン、ピコンとメッセージが流れる。 【え、悠斗ずっと勉強してんの?】 【真面目か!!】 続くメッセージに、ただの暇つぶしだと返せば 【暇でも勉強はしないな】 【勉強は暇つぶしにはならねぇよw】 【俺はまだ諦めない!】 といったメッセージが返される。 別に真面目なわけではない。特別趣味もないのでほかにする事がないのだ。 適当に返事を返し会話が途切れたところでスマホを置きノートにペンを走らせていると、またピコンと音がする。 今度は透馬からだった。 【今ちょっと話せる?】 たったその一言を読んだだけ緊張し、スマホを握る手に汗がにじむ。 【大丈夫】 返信が早すぎただろうか、と思いながらすぐに既読が付いた画面を眺めているとすぐに通話ボタンが表示された。 「もしもし、俺だけど」 「ぁっ、うん」 久しぶりの透馬の声に、ドキリとする。 機械を通した声は少しくぐもっていて、掠れた透馬の声を引き立てている。 「特に用はないんだけど、なんとなく。どうしてるかなって」 先ほどのメッセージのやりとりは透馬も見ていたはずなのに、わざわざ電話をかけてきてくれたことに嬉しくなった。 「別に。ずっと家で勉強してた」 わざとそっけなく聞こえるように雑に言葉を放つ。 俺もそんなところだ、と言って笑った後はたわいない話をぱらぱらと続けていた。 話題も尽きてきて、そろそろ切ろうかという頃にそうだ、と透馬が呟く。 「まだちょっと先だけど、夏休みの最後の週、花火を見に行かないか?」 今はまだ天候が落ち着かないけれど、流石にそのころには落ち着いているだろうから、と。 即答したい気持ちを抑え透馬の提案に迷うふりをしていると、 「無理にとは言わないけどさ。一回くらい、一緒に出掛けられたら嬉しい」 透馬らしい、優しく背中を押すような強さで悠斗を誘う。 嬉しさを隠し「晴れたらね」と口早に言って通話を切った。 どきどきうるさく鳴る心臓を押さえつけるようにシャツを掴み、深呼吸して気持ちを整える。 掴んだままのスマホをしばらく見つめると、カレンダーに【花火】とだけ打ち込んだ。
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