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episode 1
鐘の音が終わりを告げるとそれまでの静寂が破られ、ペンを置くカタン、という音とさらさらとした紙の音で教室内が満たされる。
期末試験の最後のテストが終わり、緊張で張り詰めた空気の糸がプツンと切れた。
全員のテスト用紙が回収されると、すぐに夏休みへの期待で教室内がざわつきだす。
「なぁなぁ、どこ行く?山?海?」
「俺バーベキューやりたいな~」
キャンプ、釣り、海、花火・・・
テストのことなど頭から追いやっているようで、誰もその話題には触れていない。
長い休みに思いを馳せる同級生のはしゃいだ声だけが聞こえてくる。
悠斗が終えたばかりのテストの答え合わせをしようと教科書を眺めていると、透馬がこちらを振り向いた。
「悠斗は夏休みどこか行きたいところある?」
透馬もテスト結果には興味がないようで、机にかけられたバッグからは今さっき終えたばかりの問題用紙が覗いている。
答え合わせを諦め、悠斗は教科書を閉じると頬杖を突きながら答えた。
「んー・・・俺はないかな。クーラーの効いた部屋にいたい」
暑さが苦手なため海にも山にも行きたくない。
出来れば家から出たくないと本音を言うと、ほかのクラスメイトから非難の声が上がる。
「えーなんだよそれ。つまんねぇの。1ヵ月以上も遊べるんだぜ?」
遊べるだけ遊ばないともったいない、と意気込んで休みを満喫するプランを練り始めている。
受験を控えたこの時期に、休みを満喫している時間などあるのかと心配になってくる。
高校三年生の夏休みは、一番大事な時期だと思うのだが。
「勉強したいし、俺はいいから」
受験もあるし遠慮しとく、と体よく断ろうとしても友人たちは食い下がる。
「高校最後の夏休みだぞ!たくさん思い出作んなきゃだろ!」
力強くそう言われ断り切れず、悠斗も遊びに行くメンバーに入れられてしまった。
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