【ゲーム"The gundog"の世界】 1845年 香港 Ⅴ

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【ゲーム"The gundog"の世界】 1845年 香港 Ⅴ

 テーブルに掛けてただ手持ち無沙汰でいると、店の喧騒の中で一人取り残されたような気がしてならない。    15分前に注文したビールはまだ届かないのか。これだけ店が客でごった返していると注文が忘れられているかも知れないが。  近くのテーブルに料理を運んできた女主人を呼んだ。 「なぁ、ビール頼んだんだけど。」 「あ、ケイさん来てたの。オーダー通ってないのかしら。ごめんね、すぐ持って来させるから。」 少し前に貿易商社の乗っ取りを持ちかけてきたボスの再婚相手が目の前の若い女主人だ。  俺は半年ぐらい彼女と関係を持っている。  もしボスにバレたらこの街にはいられなくなるだろうか。  もしかしたらボスは俺と彼女の不実に気付いていて知らぬフリを決め込んでいるだけかも知れない。今の彼にとっても俺は無くてはならない部下のはずだから。  彼女は何食わぬ顔で空いた食器を持って厨房に下がっていく。彼女の若々しく張りのある臀部を目で追う。昨夜はあの尻を後ろから何回も犯した。思い出すとまた下半身に血が逆流しそうだ。  ・・が、普段の俺たちは見知らぬ他人でしかない。  もう一本煙草を吸おうとした時にジェイがビールのグラスを持って現れた。   「悪いな。忙しいのに。」 「まあな。だが俺も休憩とりたかったから丁度良かった。」  オマエは休憩などいらんだろうが。機械人形が一体何を言ってるんだ。 「またソーダ水か?好きだなそれ。」 「別に。けど何か飲んでないと人間っぽくないだろ。」  ジェイはただ無表情でソーダ水を半分ほど一気に飲み干した。  人形はゲップも出ないらしい。 「そんなモノ飲んでるのオマエだけだぜ。」 「味のある飲み物は身体の金属管が汚れるんだ。で、用件は?」 「ある商社の不正を暴くのに協力して欲しい。ネタはこっちで掴んでるからオマエはニセ役人に変装して俺の筋書き通りに抜き打ちで立ち入り検査をしてくれればいいんだ。」 「そんなの、あんたが自分でやればいいだろう。」 「俺は顔が知れてるからダメだ。それにお前の顔は完全に欧米人だからイギリス国税当局の監査員だと言えば騙せそうじゃないか。」 「やり切る自信がないね。」 「俺が教える通りに資料を要求して調べてもらえればいい。かなりの額を脱税してるからちょっと調べればイチコロだ。」 「なんでそんな事知ってる?」 「もともとは俺がその会社の社長に指示したからな。税金ごまかしときゃボロ儲けだっつって。」 「クズだな、あんた。」 「なんとでも言え。ところで、その肩の刺青もうちょっと隠したほうがいいかもな。」 「太太(タイタイ)(女店主)はかっこいいって言ってくれるぜ。」 「この国でそういう刺青は変な目で見られるんだよ。」 「"raging bull"の刺青が肩に入った男はこの国じゃ有名人らしいな。そろそろきちんと教えてくれよ。」 「面倒くさい。そのへんの酔っ払いにでも聞け。“raging bull“は5歳のガキでも知ってる英雄なんだから。」 「さっきの件、協力しないぞ。」 「わかったよ。かいつまんで話すぞ。」
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