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彼女がいるのは僕とは違って朝方だろう。
昼間はずっと僕がいたから。
朝日って儚さを増加させるのかな。
悔しそうに、まっすぐ笑顔を作る君は
天使みたいで。
思わず右手を君に伸ばしかけていた。
「生きて。」
たった一言。
彼女の願いは3文字で終わるものだった。
僕は伸ばしかけた手を引いて
何も返事が出来ないまま次の言葉を待った。
「あなたの好きなところはね。
私を愛してくれてるところ。」
ゆっくりと、語るようにそう言った。
「愛してくれてるからこそ
あなたはこっち側を選ぶ。
それにロマンチストなあなたの事だよ。
今日。
私の命日にこっちに来るつもりだったんじゃない?」
僕はそこで初めて君から目を離した。
目線の先は輪っかのできた縄。
天井から吊るされたそれの下にはもう台がおかれていた。
「生きて。」
2度目の願いだった。
それはさっきよりも強く
懇願に近い君の気持ちだった。
息が詰まった気がした。
「私を忘れて幸せになって
なんて無責任なことあなたに押し付けるつもりは無いよ。」
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