世界の終わりを告げたのは、ガチ理系の女神でした

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 気が付くと、知らない部屋にいた。  周囲を見渡しても、誰もいない。 「なんだ、ここ」  自分の声が空虚に消えていく。  突然、頭のなかで不思議な声が響いた。 『私は時を司る女神。世界の終焉を、私の力で5分だけ伸ばしました』  は? いきなりなんだ? 『せめて最後の5分間を悔いのないようお過ごしください』 「意味わかんないんだけど!」  世界が終わる?  何を言ってるんだ、この女神とやらは。 『言葉の通りです。はあと4分32秒で終わりを迎えます』  全く情報は増えない。  だが、この女神とやらが嘘をついていないことだけは、何故か確信できた。  女神が続ける。 『その代わり、残り4分26秒の間、どんな願いでも叶えてあげましょう』  ふむ。聞きたいことは山ほどあるが、一番気になることから質問する。 「なんで5分なんだ?」 『そう定められたからです』 「そもそも時間の定義は? どうやって5分を計る?」 『1秒を【セシウム133の原子の基底状態の二つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の周期の9,192,631,770倍の継続時間】とし、その300倍です』  くそっ。こいつ、ガチ理系かよ。1秒の定義を熟知してやがる。  論破できれば望みがあるかと思ったが、一筋縄ではいかない。  いや、待てよ。  こいつが理系だというのなら、それを逆手に取って……。 「願い事って、現実的じゃないことでも可能か?」 『はい。世界の消滅を回避するという願い以外であれば、なんでも』  よし。言質(げんち)を取った。  なら、願い事はこうだ。 「現状の気圧および温度を保ちつつ、加速度を感じさせずに俺を移動させてくれ。ただし、で!」 『わかりました』  その瞬間、俺の身体は宙を浮かび、風景が光の速さで飛んでいく。  地球を足元に見降ろしたかと思えば、1秒ほどで月が横を通り過ぎた。  見上げると、太陽が少しずつ大きくなっていく。  勝った。  そう確信した。 「なあ、女神さん。相対性理論は知ってるよな? しかもこれは慣性系だから、簡単な特殊相対性理論の方だ」 『もちろん存じています』 「なら、俺にとっての5分間は、この世界の5分間ではないよな」  物体が移動するとき、その物体の時間は相対的に遅くなる。  そして、理論上では光速になれば時間は止まる。  もちろん現実ではそんなことは不可能だが、この女神が言い出したのだ。願い事はなんでも構わない、と。  世界から見て、俺の時間は止まっている。  だから、俺の時間はにある。  しかも、なんでも叶えてくれるという女神付きだ。  あれ? これって天国じゃね? 「じゃあ、次はどんなお願いをしよっかなあ」  余裕が生まれ、ちょっとイヤらしいことなんかを想像していると、どこからともなく無機質な音が鳴り響く。  なんだろう。すごく不吉な音だ。 『終焉を知らせる合図です』 「は? なんで? そんなはず――」  音の波が俺を包み込む。  目の前の太陽が、(かす)んでいく。  ――――――――――――――――――   俺は悟った。  5分間という猶予の正体(スヌーズ機能)を。
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