気になるあの子

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「えっ? なんでてんとう虫(おまえ)がそこに?」 初めてあいつを見た時、僕は思わず口に出しそうになるのを必死でこらえた。ここは公共交通機関の中。大きめの独り言は他の乗客の迷惑になりかねない。 しかし本当になんでこんなところに。 誰も気づいていないのか? と素早くあたりを見渡せば、他の乗客はみな座席に座ってスマホを見たり、友達と話したり、ワイヤレスイヤホンから流れる音楽を聴いていたりしている。 あの子の着ているセーラー服のカラーに隠れそうな位置にいるあいつを捕捉できているのは、あの子の斜め後ろに立っていた僕くらいのものだろう。 まさか、赤いホクロってことはないよな? そろりそろりと近づいてギリギリ不審者にならない位置でストップしてみる。 どう見てもそれは立派なナナホシテントウだった。朝露に濡れたトマトのように瑞々しい色をしている。 やつは微動だにせず、あの子のうなじにくっついている。 声をかけるべきか? 「首にてんとう虫がついてますよ」って。 いや、でも変な人だと思われたら嫌だ。 自分の首にてんとう虫がついているなんてあの子も信じたくないだろう。 そうしたら、僕の発言を疑うかもしれない。 「は? てんとう虫? 何、この人。キモいんだけど」 とか朝から女子に言われるのはきついよ。 それに、よく見りゃあの子の制服、お嬢様ばっかりだっていう噂の京愛学園高校のセーラー服じゃないか。 あっぶねー。プライドの高いお嬢様に公衆の面前で恥をかかせるところだった。 僕は迷った挙句、見て見ぬ振りをした。 それがいけなかった。見つけた直後の勢いで教えてあげるべきだったのだ。 あれから一週間。 まさかあの子のうなじにあいつがずっとくっついているだなんて。
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