風鈴と線香とカキ氷

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 チリン、チリンと涼やかな風鈴の音が響く。  軒先で揺れる金魚柄の風鈴の下で、わたしはシャクリシャクリとカキ氷を食べていた。  シロップはイチゴだ。  わたしはレモンの方が好きだけど、妹がイチゴが好きなので、お店でついついイチゴを選んでしまう。  妹はイチゴのカキ氷を、それはもうおいしそうに食べるのだ。 『おいしいね、お姉ちゃん!』  なんて満面の笑顔でイチゴのカキ氷をかきこんで、その直後に頭を抑えて妹がうめくのが、うちの夏の定番だ。  シャクリ、  そんな事を思い出しながら、私はもうひとさじ分、カキ氷を口に運ぶ。  冷たくて、甘くて、ふわっとなくなる。  カキ氷とは本当に不思議なものだ。  最初に氷をこんな風にしてみようなんて、考えた人は偉大である。 『でも、あたしはイチゴをシロップにしようとした人も、偉大だと思うよ!』  私がカキ氷の氷を褒めると、妹は決まってそうシロップを褒めた。  まぁ、どちらも偉大である。 「…………おいしいなぁ」  ぽつりと呟く。  カキ氷を食べていると、隣でいつも「おいしいね!」と返ってくる元気な声はない。  隣にあるのは、誰も手をつけてない、とけかけのカキ氷だけだ。  今年の夏はわたし一人。  チリン、  と風鈴の音色が響くたびに、線香の香りが混ざった。 「…………おいしいねぇ」  返ってくることはないと分かっていても、零れる。  冷たくて、甘くて、ふわっとなくなる。    目の前が少しぼやけた気がして、思わずカキ氷を一気にかきこんだ。   キーン、  と頭に痛みが走る。涙が出るくらい。 「ああ、ほんと、おいしい……」  掠れた声で、しゃくりあげそうになる声で、わたしはそう呟く。  その時、 『うん、おいしいね、お姉ちゃん!』  ふと、隣から妹の声が聞こえ気がした。  ハッとして隣を見れば、さっきまでそれなりに形を保っていたカキ氷は消えていた。 「…………うん。うん……おいしいね……!」  気のせいかもしれない。  それでもわたしは、ぼたぼたと涙を流しながら、何度も何度も頷いた。
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