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瑠璃先輩の夏
お盆休み、親戚と神社の夜祭りに来た。
「瑠璃先輩!」
「柏木?」
お面の屋台に後輩がいた。
「え?嘘だろ!マジで?先輩どうして?」
「私は母方の実家に帰省中」
「こんな偶然って、スゴくない?」
「アンタこそ、こんなとこで何やってんの」
「爺ちゃんの手伝いすよ。テキヤなんで夏休みはカキイレドキ」
裸電球に、お面に、雑踏の音。
茶髪にピアスの柏木は違和感なく溶け込んでいた。
「相変わらずチャラいね」
「あざーす」
「ホメてないし」
東京から遠く離れた、長野の小さな夏祭り。
「世間って狭い」
「先輩、今、俺に運命感じたでしょ」
「バカじゃない」
今日は夜になっても涼しくならない。
「先輩の浴衣姿、なにか足りない」
蒸し暑くて、襟足が汗で湿る。
おくれ毛がうなじにまとわりつく。
柏木が竿からペコちゃんのお面をはずした。
「先輩、動かないで」
「ちょっとなに」
「お祭り感が足りない」
「意味わかんない」
「やっぱ、お面がないと」
お面のゴムが髪に絡まる。
「痛い」
「ほら、じっとして」
柏木の指が髪に触れる。
私の指が冷たくなっていく。
流れるお囃子のBGM。
流されないようにしている意識。
不規則な呼吸を悟られないように。
不自然な体温を気づかれないように。
後で柏木の息づかいがして。
前で私の鼓動が鳴り止まなくて。
早く終わって欲しくて。
もっと続いて欲しくて。
私は何に混乱しているのだろう。
私は今いったい何と戦っているのだろう。
「先輩、さっきの人、彼氏?」
柏木の指が止まった。
「えっ、ああ、従兄」
柏木がゴムを引っ張り、私の頭をバチンとはじいた。
つられたように笑った柏木の声で我に返った。
「痛いじゃない!」
「手元が狂った」
「わざとでしょ、あやまんなさいよ」
「じゃあペコちゃんはお詫びの印、ひと夏の思い出ってことで」
いつものチャラい柏木がウインクしてみせる。
「似合ってますよ浴衣」
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