ひと夏の思い出 アイスの棒

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辺りを見渡すと 防波堤とテトラポットに片足ずつを乗せ こちらを見下ろしている小学生ぐらいの男の子がいた 知らない子 この男の子もいい感じに日焼けをしていて 両肩はすでに皮が剥け始めているが 新しい肌も赤くなっている 白のタンクトップに青の短パン、そしてビーサン いかにも虫取り少年といった風貌だ ただその子の手元には虫取り網も虫取り籠もなく アイスの棒が握られているだけ 私は自転車を漕ぐのをやめ またあたりを見回しても、他には誰もいない 私とこの男の子だけ こんばんは そう声を返すのが普通だろうか 私は少し迷ったあと返事をした 男の子は 満足そうに笑みを浮かべたあと 自分の背丈よりちょっとある防波堤を 慣れた様子でこちらへ降りてきて 私に近づいてくる 正直コミュニケーション能力が高いわけではない私は 年上として毅然と対応していこうと決意するが ただ無理はしている 男の子は私にアイスの棒を ジャン!という音が聞こえそうな勢いで見せてくる “あたりもう一本” 棒にはそう書いてあった
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