ひと夏の思い出 アイスの棒

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なによ 自慢かよ ただ“あたり”を見たことがなかった私は 嫉妬の心より 嬉しさを感じた 本当に“あたり”ってあるんだな ここ数日同じアイスを頬張っていた私は “あたり”なんてないものだと思うようになっていた 男の子は その“あたり”の棒を私に差し出すような仕草を見せる くれるのだろうか いや、まてよ 知らない人に物をもらっちゃいけません って、こういうシーンでも同じなのだろうか? 知らない大人からは恐怖心があるが 知らない子供は安全だろうか? ただ戸惑っている私をみて その男の子はこう告げる 「ずっとこのアイス食べてたでしょ  僕見てたよ  これ昨日あたったの  洗って乾かしてもってきた  あげるよ!」 あれ? これ、この子が大人だったらストーカーって言われるけど これはどうなの? セーフ?アウト? “あたり”の棒から目を放し男の子の方をみて ぞっとした 笑顔が消え 白目の中に穴が空いてるかのような真っ黒な瞳をこちらに向けて、まばたきもせずにこちらを覗き込んでいる、その目は私を通り抜けさらにその先を見ているような、焦点の合ってないような恐ろしい目だった、明らかに様子がおかしい なんでそんな目をしているの?怖い 「ねぇどうしたの?あげるよ!」 「ほら!ほらほらほら!」 男の子は表情も変えず、私の目の前に“あたりもう一本”と書かれたアイスの棒を差出してくる、ついには私の焦点に合わない位置まで差し出され、私は恐怖に仰け反り、自転車と共に転倒してしまった、尻から倒れた私の足に自転車のペダル部分が挟まりすぐに抜け出せない、まずい 「ほら!どうしたの!受け取れ!受け取れ!!」 倒れた私にさらに追い打ちをかけるようにその男の子は叫び、迫ってくる、もう駄目だ、恐怖に目を堅く閉じ男の子から目を放したその時 カランカラン と 何かが落ちる音
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