ひと夏の思い出 アイスの棒

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恐怖で堅く瞑っていたはずだったが、はっとその音が気になり目を開けてしまった、すると そこにはすでに男の子の姿はなく そばには“あたりもう一本”と書かれたアイスの棒が 落ちていた 私の強張った体は、どっと力が抜け今更ながらに大量の汗をかいていたことに気がついた なんだったのだろう そう辺りを見回しても男の子の姿はなく 気づけば辺りはすっかり日も暮れ 夜の街へと姿を変えていた 倒れた自転車を起こし そのアイスの棒は恐怖で拾う気にもならず 慌ててその場から逃げ出した 果たして受け取っていたらどうなっていたのだろうか その場から少し離れたところで後ろを振り返り アイスの棒のそばを見てみるとそこには 一人男の人が立っていて、明らかにさっきの男の子ではないが、どうやらアイスの棒に気がついたようだ 拾ってはダメ! そう言う前にその男は 「お、あたりじゃんラッキー」 そう言って棒を拾ってしまった 男は 右手に棒を持ち焦点の合わない目で一点を見続けその体は小刻みに震えだし半開きになった口からは小さくだが確かに あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ と声にならない声を出していた、すると男は受け身を取らずに倒れ、その体は関係なく痙攣を起こしガタガタガタガタと激しく揺さぶられるがしかししっかりと右手にはアイスの棒が握られ離さない 私は無力だ 恐怖で悲鳴を上げることも出来ず、自転車を走らせその場から逃げてしまった
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