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最寄りと教えられた駅まで電車で三時間弱。 そこからバスで移動らしいが、改札を出る時にもたついたせいで夏希はその日の午後便の最終を逃してしまった。 タクシーなんて走ってない田舎の駅で、このまま電車で折り返し三時間弱乗ってとんぼ返りをする気力もなかった。 駅から少し外れた場所に、屋根付きの休憩所のようなスペースを見つけ、夏希はトボトボと移動をする。引いているキャリーバッグが砂利に当たりガラガラと喧しい音を鳴らす。 蝉の声と良い勝負をしていると夏希はぼんやり考えて歩いていた。 休憩所のベンチには先客がいた。 今年で十三歳になった夏希にしてみれば、お兄さんともおじさんとも言い難い年代の男だった。 男は無精髭を生やしていていまいち清潔感が無かったが、スケッチブックに一心不乱に眼前の向日葵(ひまわり)の群衆を描く顔は真剣そのもので…不覚にも夏希はドキッと胸を高鳴らせた。 夏希にとって、このいまいちの男が『大人の真剣な顔』を初めて見る機会になったのだった。 邪魔をするのは憚られたが、隣のベンチまで近付いてちょこんと腰掛けた。先程までこれからどうしようかと悩んでいたのが嘘のように、スケッチを走らせる腕に食い入るように魅せられている。男は気付いていないのか、夏希を気にする様子もなかった。
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