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強い朝陽に照らされて、まだ早朝とも呼べる時間に目が覚めた。 夏希は寝ぼけた頭で着替えを探すが、近くにあるはずの衣装ケースに手が届かないことを不審に感じた後、ここが自室でないことを思い出した。 ◇◇◇ 「ただいま…」 「お、お邪魔します!」 冬司は無遠慮にガラガラと玄関の引き戸を開けた。 夏希の声に弾かれた様に、昔会ったきりの祖母、伯父、伯母が駆け寄り、口々に「良かった」「安心した」と呟いた。今日来ると言っていた子どもが夕方になっても到着しない為、心配していたらしい。 夏希は「ご心配お掛けしました。冬司さんに連れて来て頂きました」と頭を下げた。 伯母は「しっかりした子だわねー。冬司、あんたわざわざ迎えに行ってくれるなんて気が利くじゃない!」とご満悦であった。 実際のところ偶然なのだが。 これ以上騒ぎを大きくしない為に二人は顔を見合わせて、そういうことにするよう示し合わせた。 用意されていた豪華な夕食に舌鼓を打って(夏希の母は料理が下手だった)、父の子ども時代の話などを聞いている内にあっという間に夜は更けていった。 食卓の中の冬司は物静かで、夏希は少し物足りない気持ちを覚えたのだった。 ◇◇◇ 「お、起きたのか。寝起きが良いのは関心だな」 夏希が洗面所に顔を洗いに行くと、冬司が先客で居た。その姿を夏希はマジマジと見つめる。 「若い、格好良くなってる」 「お? お子様はこっちのが好きか?」 無精髭が綺麗に剃られてスッキリした口元は、見た目の年齢をグッと引き下げる効果があった。 タオルで顔を拭いた冬司は、夏希をにやにやと見下ろしている。 「暇人の『高学歴の社会不適合者の引き篭り』は、可愛い可愛いお子様のお守りを母上に命じられてしまいました。さぁお姫様、ワタクシニ何なりと行きたい場所、やりたい事を仰って下さい」 「あの、その言葉は本当にごめんなさい!」 冬司は夏希の頭をぽん、と撫で苦笑した。 「真面目な奴だなぁ。冗談だから気にするな。で、何かやりたい事ってあんのか?」 冬司は薄々、夏希がこの家を訪れた理由を察していた。誰がその言葉を夏希に植え付けたのかも、少し考えれば容易に思い当たった。 叔父が結婚した十四歳年下の妻は、夏希と自分自身を全く田舎に近付けなかったから。 お陰で駅の休憩所では危うく他人としてすれ違うところだったと、冬司は内心で笑う。 少しの間考え込んだ夏希は、「川が見たい」と言った。 「よし、じゃあお子様は顔洗って飯食ったら、二階の俺の部屋に呼びに来な。川遊びに連れていってやる」 途端に顔を綻ばせた夏希に、冬司は下心なく可愛い子だなと感じた。
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