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軽トラを二十分程走らせて、冬司は車を道路脇に停車させた。川に下りれるようになっているその場所には自動販売機だけがポツリと立っていて、妙な存在感がある。 冬司はその自販機にお金を入れると「何が良い?」と夏希に聞いた。よくよく商品を見ると自分の家の方では見たことない飲み物ばかりで、夏希は少し悩んでからオレンジの絵柄にやたら果肉増量を謳っているジュースのボタンを押した。 握ると気持ち良い冷たさが掌に伝わり、「ありがとう」と冬司に向き直る。しかし冬司は川へ下りる土手へ既に向かっていて、夏希は慌てて追いかけた。   川辺まで近づくと、水の流れる音だけで体感温度がかなり下がったようであった。冬司は大きな岩に腰掛け、缶のブラックコーヒーを飲んでいる。夏希も隣に座って「頂きます」と言ってからオレンジジュースに口を付けた。 宣伝している通り、果肉がたっぷり入っている。喉を通るプチプチした食感が楽しかった。 「…なぁ、夏希は何か夢ってあんのか?」 唐突に質問され、夏希は返答に悩んだ。 母親には良い学校、良い就職先と望まれるが、それが自分の夢かと言われたら違う気がしていた。少し間を置いて、「幸せな結婚かな」と呟く。冬司は豆鉄砲を食らった表情の後、笑い転げた。 「そっかそっか、幸せな結婚かぁ…。そういやお前まだ、十三歳だったもんなぁ」 気が抜けたような様子の冬司に、夏希は首を傾げる。冬司は「夏希の夢が綺麗過ぎて、オッサンは羨ましくなりましたとさ、マル」と言ってまだ笑っている。 大人ってよく分からない。 夏希はそう思いながら、川に足首だけつけて涼んだ。冬司は煙草を吸いながら、たまに夏希の頭を撫でて…眩しいものを見るかのような表情をしていた。 特に会話をするわけでもなく、その日は穏やかに流れていった。 夏希の中で、母の口癖である 『高学歴の社会不適合者の引き篭り』は完全に消え失せてしまっていた。 ただの年上の、優しくて…格好良い、気になる従兄弟。 夏希は客間の布団に横になりながら、自分の膨らみかけた胸をギュッと抱きしめて眠った。
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