バスを待ちながら

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 男が次にバス停ポールを置いたのはラブホテルの前だった。 「ここにするんですか?」 「そうだな。利用するのにも便利だろ」 「おじさんはこのホテル使ったことあるんですか?」 「昔働いていたんだよ」 「本当ですか?」 「会社クビになって嫁に言えずにこっそりな、そしたら嫁が浮気相手連れてきやがった」 「マジで言ってるんですか? ドラマじゃないですか?」 「嘘だよ」 「はい?」 「俺みたいなやつが結婚できるわけないだろうが」 「どういうことですか、嘘ってことですか?」 「そうだよ。さっき言っただろ、聞いてなかったのか?しっかりしろよ」  男が馴れ馴れしく肩を叩いてきた。ぼくは苦笑しながら、すみません、と小さく言って頭を下げた。 「おっ、あと5分でバスの到着時間だな」  男が時刻表を見ながら言った。だが5分経っても当然バスは来なかった。男はまたバス停ポールを持ち上げ、歩き出した。
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