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二枚札
四月、桜の花が満開となりねずみ色のアスファルトが桜の花びらのパックをされて彩られる時期になった。
あたしは桃色の絨毯の道を踏み抜き、学校に向かっていた。
今日から小学校六年生。小学生でいられる最後の一年と言うこともあり気合が入っていた。
小学校一年生の時は六年生の女子が大人のように見えたのだが、いざ自分が六年生になってみれば一年生の幼稚さがまだ抜けきれていないガキと変わりないことに気がつき、どうしてあんな人をお姉さんと思っていたのだろうかと考える。大人っぽいとされる女子でこれなのだから、男子に至ってはもっとガキだろう。
「おはよっ! 美子!」
あたしの後ろ姿を見つけた美幸が後ろから駆けて来て、あたしの隣に並ぶ。これがいつもの登校スタイル。うちの小学校では集団登下校なんてものはない。あたしも本来ならば新一年生と小さな手を繋ぎ一緒に登校するべきなのだろうが、生憎とその役目は他の者に任された。正直な話、面倒くさいことに巻き込まれなくて助かったと思っている。
「今日から六年生だね」
「幼稚園卒業して、訳わかんない内に入学してから六年、長いのやら短いのやら」
「ぶっちゃけた話、一年生の頃なんてあんまり覚えてないよね」
「そうそう、ほぼ幼稚園だったよね。授業聞かないと怒られるぐらいで、あんまり差はないよね」
「こうやって私服で登校するのも後一年かぁ…… 楽しみだなぁ、セーラー服」
そうか、美幸は地元の市立の中学校に行くのか…… あたしは私立中学に進学する予定だ。
その私立中学の制服は紺色のブレザーに真紅のリボンに、赤黒格子柄のスカート、紺色のハイソックス、どこかアイドルグループの衣装のようなデザインだ。あたしはセーラー服に憧れていただけに進学先がブレザーと聞いて少しガッカリした。それよりも後一年で美幸と一緒に学校に行けなくなると言う事実を今更再確認したことでガッカリし、俯く。
「どうしたの? シュンとして」
「いや…… 美幸と一緒にこうやって学校に行くのもあと一年なんだなって……」
「そっかぁ、美子は私立のいいとこ行くもんね。市外だっけ?」
「市外どころか県外、中学生にして電車通学。時々はお父さんが車出してくれるらしいんだけど」
「ふーん、やっぱりお嬢様教育やってるわけ? その中学」
「授業で日本舞踊とか華道とか琴とか三味線とかあるぐらい」
「何この大和撫子育成機関」
「これがお嬢様学校たる所以かなぁ…… いつも家帰ってからの習い事でやってることだからすぐに慣れると思う。あたしとしてはテニスとかやりたいんだけどね。それで、ボールを打ち返すだけで蝶が舞う先輩がいるの」
「美子、漫画の読みすぎよ」
あたしは厳しく育てられているが、漫画もお菓子も実際のところ好き放題だ、その分、習い事は真面目にやると言う約束の上ではあるが。漫画に関しては祖母の部屋に置いてあるものが特に好きだ。眼球が顔の半分を占めて、瞳はプレアデス星団そのものの古き良き少女漫画が気に入っている。祖母が少女時代から連載している作品もあるのだが…… 祖母が亡くなるまでに終わるのだろうかと心配になってしまう。
「ま、とにかくそんなわけで美幸とはあんまり遊べなくなっちゃうな。悲しい……」
「あたしだって、小学校に入って初めて話しかけてくれた親友がいきなりいなくなって悲しいと思ってるよ」
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