六枚札

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最後がこれとは、実に呆気ない。あたしは…… 勝てなかった。瑠璃に負けたまま終わることを確信したのだった。 ばぁん! 瑠璃は思い切り畳を叩きつけた。そして、叩きつけたことで伏せていた顔を上げてあたしに満面の笑みを見せた。これが、勝者の顔か…… と、あたしが考えていると、瑠璃は左手で握りしめた「けふのかぎりの いのちともかな」の札を見せつけた。 え? まさか最後の最後で反則負け? そんなのって…… そんなのって…… 競技かるたはかるたを取る手は右か左の一本のみに決まっている。右手を使っていたのに途中から左手に切り替えるなんてことは出来ない。それをすれば即座に反則負けだ。 あたしはふざけんなと言いたげに瑠璃の胸ぐらをつかもうとした。瑠璃はその手を優しく包み込んで穏やかな笑顔を見せながら言った。 「お前さぁ、何で払い手で正面に札飛ばすの?」 「え?」 「いきなり目の前に札が飛んでくるから反射的に受け止めちまったよ。ピッチャー返しじゃねぇんだからさぁ」 そう、あたしの払い手は物理法則を無視するかのように、札を正面へと飛ばしてしまったのだ。薙ぎ払いで畳をスッと叩きつけての衝撃からくるものか、何らかの風圧がそうさせたのかはわからない。とにかく、札が正面に飛んだのだ。 瑠璃は正面から飛んできた札をピッチャー返しの要領でサッと左手を出して受け止めた。 囲み手で振り下ろした先に札はなかった…… その頃にはあたしが瑠璃の正面へと飛ばしていたのだから。 「ほい、お前の札だ。おめでと」 「あ、ありがと」 審査員があたしたちの両陣を確認する。あたしの陣、ゼロ。瑠璃の陣、一枚。 あたしの勝ちだ。嬉しいのは間違いない…… けど…… けど…… 何かが引っかかる。 あたしたちは再びお互いに座り試合終了の礼を交わす。 「「ありがとうございました」」
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