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「わかんない。でも、お婆ちゃんからずっと教えられていたことだから学校でも続けるとは思う」
「わかった、だったらかるた続けてくれね? 俺、かるたやめないから!」
「いきなり何言ってるの?」
「婆ちゃんの遺品にあった百人一首の本読んで、たまたま始めただけだったんだ。俺にとって競技かるたってこの程度の扱いだった。だけどな! 美子と何回も何回も競りあってるうちに何よりも楽しいって思えるようになってきたんだ。特に美子との競り合いは特に楽しいんだ! だから、俺、かるたやめねぇ! てか、一緒にいるだけで楽しいんだよ! だから美子もかるたやめるな! クイーンになれ! 俺、その横に立つキングになりてぇんだよ! 一緒にいてぇんだよ! クイーンとキングなら一緒にいられるだろ?」
「競技かるたにキングはいなくて、名人って言うんだけどな……」
かるた競技者の女性で最強の地位にある者をクイーンと呼ぶ。なら、かるた競技者の男性で最強の地位にある者を王様と呼ぶかと言うと、そうではない。ただ単に名人と呼ぶのである。王様と呼ばない理由はあたしも知らないし、わからないがこう決まっているのだから仕方ない。
「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の!」
いきなり崇徳院の歌なんて詠んでどういうつもりなのだろうか。あたしは反射的に下の句を詠う。
「われても末に 遭はむとぞ思ふ」
「俺たちさ、かるたで繋がってるだろ? かるたさえ続けていればいつかはまた会えると思うんだ!」
そう言う歌だ…… あたしは崇徳院の想い人のように瑠璃に想われているということか。
しかし、かるたを続けて再会したところで人の気持ちは変わるもの。あたしは瞬時に思いついた歌を詠み上げた。
「人はいさ 心もしらず……」
「ふるさとは 花ぞむかしの 香ににほいける!」
ちょっと…… 上の句の段階で全部詠み終えないでよ! 人の気持ちは変わる、あなただって数年会わないだけで気持ちは変わるでしょって皮肉を込めて詠んだのに、上の句の途中の「ふるさとは」から一気に下の句の「花ぞむかしの 香ににほいける」を瑠璃が詠んでは「この里の花(梅)の香りのように変わらない」と言っているみたいじゃないか。変わらない人の気持ちなんてあるわけないのに。
「かるた続けて、美子と再び会えること信じてるから! 何年でも、かるた続けて美子を待つよ!」
なんだろうか、この平安時代の貴族の歌で愛を語り合うようなやり取りは。普通ならクラシックすぎてついていけない。しかし、あたしはそれが嫌いじゃない。
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