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瑠璃はさらに続ける。
「忘れじの 行く末までは 難ければ」
今日、あたしたちの間を何度も行き来し、最後に瑠璃に引導を渡す最後の札となった歌だ。
あたしは反射的に下の句を詠う。
「今日を限りの 命ともがな!」
瑠璃はポケットからその札を出した「けふをかぎりの いのちともがな」だった。まさかパクったの? 毎年使い回すもんだから後で返しなさいよ。
「今、美子に告白OKされないのは悔しい! いつか会った時には別の格好いいイケメンの彼氏がいるかもしれねぇ! そんなのやだよ! 耐えられねえよ! だったらこのまま時が止まって欲しいと思ってる! 実を言うと、今日、美子と競りあってる間中ずっと考えていたんだ! このままずっと一緒にいたいって!」
奇遇だ…… 方向は違えどあたしも同じことを考えていた。いや、方向性は実は同じだったもしれない。だが、それを認めるということは……
あれ? どうなるんだろう? それを考えるだけであたしの胸は激しく熱くなる。一月の寒空の下にいるのにあたしの全身は熱い。特に胸のあたりは心臓が火の玉と化したような感じがする。
「途中で、歌を交えて変な感じになったけど…… 俺の気持ちは全て伝えた! 俺は美子に因縁の相手でしかなかったってことが分かっただけでもよかった! じゃあな!」
瑠璃は踵を返して全速力で走って行った…… 言いたいことを言いたいだけ言ってあたしの前から疾風のように、ダッタン人の矢よりも早く去っていった…… あたしは瑠璃に対してその気が無いことを伝えただけだ。何も悪いことはしていない。あたしに告白して玉砕しただけのこと。あたしが気に病むことはない。
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