七枚札

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七枚札

 そして、月日は流れた。中学校に入学してからの三年間、あたしは競技かるたの表舞台には一切出ていない。厳しい寮生活で地方のローカル大会にすら出ることが出来ないし、お盆や正月には交換留学や修学旅行などが入り地元に帰ってないために城南市民競技かるた大会にも出ていない。 そもそも、中等部に競技かるた部が無いのだ。しかし、高等部には競技かるた部はある。 かと言って、競技かるたから離れていたわけではない。あたしの寮の部屋は二人部屋、遥か遠く北海道から来たと言うルームメイトに競技かるたをイチから教えていたのだ。  三ヶ月でものにはなったが、百首全部覚え切れてないこともあり、あたしの相手としてはまだまだ力不足だ。三年間鍛え上げてもそれは変わらない。 そのルームメイトが「あたしじゃ力不足でしょ?」と、言うものだから寮にいる高等部の先輩と話をつけて、競技かるた部へと繋げてくれた。  競技かるた部の先輩とも何度も()りあったのだが…… 確かに強いことは強いのだが、瑠璃に比べるとまだまだだ。一枚札を一文字目の半分になってやっと手が動く、これでも十分に早いのだが、一文字目の発声がされるかされないかの戦いを繰り広げてきたあたしにとっては「遅い」と感じるものであった。競技かるた部の先輩はあたしのことを惜しがった「あなたがいれば確実にうちの高校全国一だわ」とのお墨付きを貰った、高校生かるたクイーンに一番近いとされている先輩が言うだけに信用は出来るだろう。歳を誤魔化して高校生かるた大会にあたしを出そうとしたこともあった。聞くに、あたしをかるた仮面として剣道の防具を装着しての大会参加を本気で考えていたらしい…… そんな馬鹿馬鹿しい提案をされたのだが、断ってやった。 そんな訳で、あたしは中等部の三年間かるたから身を隠すような生活を送っていた。それでも鍛え上げたルームメイトとの戦いや、高等部の先輩の殴り返してくるサンドバック役を三年間引き受けていた(三年間、一度もKO(負け)はされていない)おかげか、かるたの腕は一切落ちていない(と、思う)。  高等部に進級したあたしは期待の新入部員としてかるた部へと入部した。先輩たちにも「中等部から参加していたすごい子が来る」とのことで、一年生にして二年生三年生を率いるかるた部主将に任命されてしまった。入部届を提出した瞬間から二年生三年生のかるた部員全員が納得し、決めていたことだったらしい。あたしとしては年功序列が崩れると激しく拒否したのだが「うちは実力主義だから」とのことで押し切られてしまった。  とにかく、これでかるたの表舞台に出ることが出来た。この三年、毎日が勉強の日々で、留学や修学旅行で海外に行くことが多かったせいか、忙しかった。これで心を亡くしたのか、あたしの体内時計の針は壊れたのかノンビリと動くようになり、一日一日が長く感じるようになってしまった。中等部のたった三年間がまるで何十年、何百年と経過したかのように長く感じていたのである。 あたしにとってはこの多忙の日々は楽しい出来事ばかりだったはずなのに、長く感じるのはどういうことだろうか。ストーブの上に手を乗せていると時間が長く感じると言うが(アインシュタインだっけ?)楽しい出来事ばかりなのに長く感じるのはどういったことだろうか…… そもそも、三年前の一月のあの日からずっと時間の経過が長く感じている。 ほら、今だって、長く感じる。
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