七枚札

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 すると、楼門を潜り抜ける男女の高校生の集団の姿が見えた。詰め襟の学ランにセーラー服の組み合わせで、見かけは普通の高校生だった。しかし、かるた競技者の勘とでも言うのか、あの子たちも大会の参加者だと言うことが分かった。あたしはあの集団を見てかるた競技者が持つオーラのようなものを感じたのだった。対戦相手になるかもしれない、すれ違うことがあれば一礼の一つでもしておこう。 あたしはクラスの友達にお土産を買おうと思いスッと立ち上がり、神符授与所へと向かった。それこそアニメグッズでいいかと考えていると、参拝を終えたその集団もお土産を買いに来たのかこちらに向かってくる。 どこの高校は知りませんが対戦することがあれば宜しくお願いします。あたしはペコリとその集団に頭を下げた。 すれちがった刹那、あたしは集団の中にいた一人の男に声をかけられた。 「美子?」 一体誰よ…… 初対面なのに人の名前を呼び捨てで呼ぶなんてお里が知れると言うもの。 あれ? なんで見知らぬ人があたしの名前を知っているのだろうか。 あたしはそのお里が知れる男の顔をじっくりと見た。背は180cmぐらいだろうか、顔は整っている、高校生男子…… いや、男子自体を見ることが久しぶりだ(女子寮暮らし故に)。 しかし、見覚えはある顔。声に関しては聞き覚えがない。 「あの、いきなり人の名前を呼ぶなんて失礼なんじゃないですか。人違いでは?」 あたしはバッグの中の携帯電話(遠征のため臨時に持たされたもの)を握り警察に電話をしようとした。 「倉持美子だろ?」 フルネームを呼ばれた。人違いの線は消えたか。とりあえず名乗りなさいよ。人に名前を名乗るときはまず自分からって…… あれ? 相手が先にあたしの名前を名乗って知っている場合はどうなるんだ? 「やっと会えたよ! 美子! 中学三年間ずっと待ってたのに来ないから待ちくたびれたんだぞ! 名人戦にもクイーン戦にも全中かるた大会にもこねぇからかるたやめたかと思っちまったよ! でも、来てくれた! かるたやめてなかったんだな! それだけで俺嬉しいよ! 何より美子に会えたことの方が嬉しいよ!」 本当に何なんだこの男は。本気で通報しないと身が危ないかもしれない。どうでもいいがこんな神聖な神社で我を忘れてあたしの名前を叫ばないで欲しい。 ここで「あなた誰ですか?」と、言えばすぐに終わる話なのだが、あたしはこの男に軽い恐怖を覚えてそれが出来ずにいた。こういう時に顧問も先輩も近くにいないんだから! すると、男の後から同い年ぐらいのセーラー服の女子がヌッと姿を現した。あたしはその()に見覚えがあった。その()は男に「少しは落ち着きなさいよ」と窘めながらあたしにペコリと礼をする。
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