二枚札

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 そんなことを考えているうちに学校に到着した。下駄箱の前で瑠璃は跪いて少年と目を合わせ、これから先のことを説明する。 「いいか? 昨日、体育館でお歌を歌った後に行った机がいっぱいあるところに行くんだぞ。一年一組、いいな? 一年一組だぞ。それで自分のお名前が書いてある机に座るんだ」 「はーい」 少年は廊下をとたとたと駆けて行った。瑠璃は最後に声をかける。 「おーい、廊下は走るなよーっ! 先生に怒られるぞーっ!」 少年はその言葉を無視し、一年の教室がある方へと駆けていった。その瞬間に瑠璃は「はぁ~」と言った溜息を吐きながら肩を落とす。あたしはその肩を とん と、強めの力で叩いた。 「よ、おはよ」 「何だよ、倉持かよ」 「一年生のお世話?」 「最悪だよ、同じ団地の子ってだけで押し付けやがって」 「あの子、お母さんとかは?」 「トーチャンカーチャン、朝から出勤なんだと」 「ふーん、で、羽冠くんはいつまで世話するわけ?」 「当分は続くだろうな。ま、さっさと道覚えて、友達出来て『友達と一緒にいくからいい』って言うまでは一緒に行けって担任のお達しだ」 「面倒くさいね」 「ホントだよ、うちの学校集団登下校が無いから班員に気使わなくていいから楽だったのに…… ギリギリまで眠れもしない」 「集団登下校?」と、美幸が首を傾げる。集団登下校が無い地域の者にとっては聞き慣れない言葉だから仕方ない。あたしだってテレビのニュースでチラリと見るぐらいしかその存在を知らない。 「ああ、町内一班十人ぐらいで登校するんだよ。俺が前にいた市、治安が悪くてさぁ。みんなで集まっての登校が基本だったんだ」 「あれ? でも帰りはどうするの? 下級生と上級生じゃ学校終わる時間違うじゃない」 「先生方もそこまで頭が回らないのか、下級生は下級生だけで下校だよ。俺がいた間に何もなかったのが不思議なぐらいだ」 「本末転倒と言うか、なんと言うか」
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