4人が本棚に入れています
本棚に追加
冬休みが終わり、二学期の後期、小学校五年生最後の数ヶ月が始まった。
あたしは市民競技かるた大会のことを黒歴史にし、思い出さないようにして時を過ごしていた。始業式での校長先生の極めて退屈な話が終わった後、教室にてホームルームが始まった。担任教師はハワイにでも行っていたのか肌がすっかり小麦色に焼けている。
「おはようございます。皆さんは冬休み、どのように過ごしましたか」
田舎のお婆ちゃんの家に行ったとか、テーマパークやアミューズメントパークに行ったなどと言った旅の思い出を我も我もと言った感じに叫ぶ。
各々、冬休みの予定を言い終えたところで担任教師が口を開いた。あたしは「思い出したくなかった」ので、口を貝のように噤む。
「はい、皆さん、楽しい冬休みを過ごせたみたいでなによりです。そうそう、今日から来た転校生を紹介します。入ってきてー」
教室の引き戸を開けて一人の少年が入ってきた。あたしはそれを見て顎を外して驚いた。なんと、あの決勝の相手だったのだ。別の学区の子だと思っていただけに余計に驚いた。
少年は仏頂面をしながら担任教師の横に立つ。担任教師は黒板に少年の名前を書こうとしたのだが、手が止まる。少年は担任教師からチョークを取りあげ 羽冠瑠璃 と、書いた。あたしは画数が多くてテストで苦労しそうだなと極めて下らないことを考えてしまった。
「えーっと、難しい漢字ですね。じゃ、羽冠くん、自己紹介を」
「えっと、羽冠瑠璃です。宜しく」
皆「変わった名前だなー」と、思いながらパチパチパチと拍手をする。あたしだって言いたいぐらいだ。竹取物語に出てくる一世一代の嘘話に出てくる天女の名前そのものじゃないか。男に瑠璃と言う名前をつけるセンスは今どきとでも言うのだろうか。クラシカルな名前に思えるが一周回って近未来のセンスなのかもしれない。
「席、どこが空いてたかな?」と、担任教師。
あたしの隣の席が空いていた。誰かが欠席しているわけでもなく、ただ、理由も無く空いているだけだ。少子化のこの時代、空き席が出来るのは珍しいことじゃない。ただ、教室内の机の配置のバランス合わせのためだけに置いてあるだけである。担任教師は瑠璃にこの空き席を充てがう。
「じゃ、倉持の隣な」
瑠璃はあたしの隣の席に座った。あたしは男子でも平気で話をするタイプだ。座ったままペコリと礼をした後に、少し話をすることにした。
「久しぶり。今年のお正月以来だっけ?」
瑠璃はあたしの問いに対して「何言ってるんだ? こいつ?」みたいな顔をして首を傾げる。
最初のコメントを投稿しよう!