一枚札

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「ゴメン、誰だっけ? 初めて会うよね?」 覚えてないのか! そうですか…… 自分が完膚無きまでに叩きのめした相手のことなんか覚えてないと言うことですか! ならばヒントだ。 「今年の競技かるた大会の決勝で……」 ここまで言って忘れているなんてことがあったら、あたし悲しいよ?  これじゃあ、あたしが路傍の石とかアリンコみたいな扱いってことになるじゃないか。 「ゴメン、本当に覚えてない」 「競技かるた大会に出たことは覚えてるよね?」 「うん、優勝したよ」 「その時の決勝の相手! あたしなの! 本当に覚えてない?」 「うん、覚えてない。この町に引っ越したばかりでドタバタしてて色々あって忙しかったから誰とかるたやったかなんて覚えてない」 あの払い手の速さ、歌を完璧に覚えてなきゃ出来ない。歌は覚えるけど対戦相手の顔は覚えないとはなんて失礼なやつだ。あたしは「キレた」机に両手を叩きつけて瑠璃に怒鳴りつける。 「ふざけるんじゃないわよ! あたしがあの後どれだけ!」 クラスメイト達が全員あたしに注目する。当たり前だ、まだホームルーム中なのにそっちのけで大声を上げたのだから。これではあたしがどこかおかしい人じゃないか。それもこれも全部こいつのせいだ。瑠璃はすまし顔で我関せずと言いたげに黒板に注目していた。 「倉持、ホームルーム中だぞ。さっきから話も聞かずにコソコソと……」 「す、すいません……」 あたしは恥ずかしがり、塩をかけられたナメクジが小さくなるようにシュルシュルと席に座った。そもそもホームルーム中に話しかけたのが間違いだった。今日は二学期の後期の始業の日ということもあり、この後は授業も何もなく終わる。勝負はその後だ。
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