一枚札

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瑠璃があたし以上の熟練者であるならまだ諦めもつくが、相手はチートのような瞬間記憶能力者だけに複雑な感じがして諦めがつかない。 「あたしにとって、競技かるたって遊びじゃないのよね…… 真剣にやってるの。それなのにあいつは片手間で! あたしがこれまでやってきたことは片手間に負けるの?」 ついヒートアップしてしまった…… 周りの客もあたし達の席を注目し始める。これはまずいと思った美幸はあたしを落ち着かせに入った。 「まぁまぁまぁ、美子、調子悪かったんじゃないの? 体育館寒くて腕が冷たくて動かなかったとか」 それは無い。城南市民体育館は冷暖房完備だ。ジュニア袴の薄手の着物素材でも汗をかくぐらいには暖かった。 「これやこの いくもかえるも わかれては」 「いきなり何言ってるの?」 「ほらほら、坊主めくりの問題児の歌よ。下の句は?」 「しるもしらぬも おうさかのせき」 「はい、合格。ド忘れしたってことはなさそうね」 それも無い。あたしの頭の中では百人一首は全て頭に入っている。三つ子百まで踊り忘れず。おそらくだが、あたしが死ぬ間際になっても百首全てを忘れることはないだろう。 ちなみにだが、美幸は競技かるたなぞ一切出来ない。正月に親戚で集まって百人一首をする時は「坊主めくり」しかやらないとのことだ。上下の句が書かれた絵札しか使わないために、下の句が書かれた字札はオマケだと思っていたとのことだった。今、美子が読み上げた句は「蝉丸」の句、蝉丸は坊主めくりでは「坊主」になるのだが、帽子を被っているために「貴族」の扱いにされることがある。あたしも「こんな遊び方があるのか」と、美幸とやったことがあるのだが、単純に運のゲームであるために負けてしまった。美幸は坊主が出ると負けと言う単純なルールから「坊主」の句だけは全部自然に覚えていたのだった。
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