蠢く森

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 ここは木の根が絡み合うように苔の生えた土の上に出ていて、緑色の葉がひしめき合う森だ。普段だったら陽が木の葉の陰から湿った土に注いでミミズが眩しそうに顔を出す。誰もが思う。この地は幻想的な場所だ。でも今は人間の姿は二人しか見えない。 この森がある場所、ヒールオンサークルという名前の村がある土地は夏の始まりだ。今は何時もなら昆虫たちは忙しそうに、その上楽しそうに木の枝を這っている光景が見られた。動物たちも同様だ。大きな動物も小さな動物も木の葉のさざめく音に合わせてピョンピョン跳ね回る。だが今日は昆虫もミミズも動物さえ楽しそうな姿は見えない。  ジャスパーは雨で濡れた木の葉を踏みしめながら風を切って歩く。この森の奥に妖精の村があることをジャスパーは知っている。ジャスパーは栗色の髪に真っ白な肌の魔法使いの男の子だ。肌にはそばかすが散らばっていて目は深いグリーンの色をしている。  今日は森の木々の落ち着きがない。もうすぐ台風が来るからだろう。昆虫やリスは木の幹に、鹿は崖の下に身を潜めている。  ジャスパーはブラウスの首に巻いているリボンを正した。今日は魔法学校の授業をサボって森に来た。だから制服姿だ。小学校にあがって一年経っただけだから白いシャツに紺色のズボンはまだ真新しい。汚れてしまうかもしれないが、台風が来るとなるとローラを助けなければいけない。ローラは森に住む人間の女の子だ。お爺さんと二人で住んでいるのだがお爺さんは耳も目も悪い。台風が直撃したら二人は嵐の中、蠢く森に飲み込まれるだろう。
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