恋の魔法が解けるまで

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 その代わりに私は、ふわりと文哉君の腕の中に抱き寄せられた。息苦しさを覚えるぐらい、ぎゅっと心地よい力強さで抱き締められる。 「どうして……?」  日没の時間は過ぎたはずなのに。 「よくわからないけど、安心してよ。オレも忘れたりしないから。オレだってずっと菜美ちゃんの事が好きだったんだ。魔法なんてないし、忘れたりなんてしない。死んだ相楽に誓ってもいいよ」  彼の口から飛び出した名前に、思わず息をのむ。 「佳苗に? どうして?」 「オレ、相楽にだけはずっと相談してたんだ。菜美ちゃんと仲良くなりたいんだけどって。あいつあんな風になってからもずっと行けって言ってくれてたんだけど、なかなか勇気が出なくって」  照れながら言う文哉君に、佳苗の言葉が蘇る。病床から自信を持て、勇気を出せ、元気にと私を応援し続けた佳苗。  そっか。佳苗は私と文哉君の両方の気持ちを知っていたんだ。だから……。  じゃあ、恋の魔法は? 文哉君の心を盗むって。そんなもの最初からなかったの?  ……いや違う。きっとこうして私たちに一歩踏み出す勇気を与えてくれた事こそが佳苗がかけた恋の魔法なんだ。  心を盗むんじゃなく、勇気を与えてくれるおまじない。 「菜美ちゃん、もう一度返事を聞かせて欲しいんだけど。あの、オレと付き合って貰えないかな?」 「……喜んで」  私はありったけの勇気と元気を振り絞った笑顔で答えた。  天国の佳苗に、感謝の意味を込めて。
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