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恋の魔法が解けるまで
私の隣で文哉君が笑ってくれる。
それは夢にまで見た幸せな時間だった。
いつもクラスのどこかから誰にも気づかれないように、こっそり盗み見るだけだったのに。
きっと私の気持ちはこのまま、本人に伝える事もできないで終わってしまうんだと思っていた。
なのに――
「恋の魔法をかけてやろうか?」
知らないおばあさんが突然目の前に現れたのは昨日の夜。
「お前が大好きな人の心を盗んできてやろう。時間は明日の太陽が沈むまで。好きなだけ楽しんでくるがいい」
「どういう事? どうしてそんな事をするの?」
「相楽佳苗、という女の子に頼まれたからだよ」
それだけ言い残して、おばあさんは霧のようにかき消えてしまった。
相楽佳苗。
それは昨年、病気でこの世を去った私の親友だ。
私なんかよりずっと可愛くて、元気で溌溂とした女の子で、私の文哉君への想いを知っている唯一の人間でもあった。
「菜美はもっと自信持った方がいいよ。可愛いんだから。勇気出して、元気に、ね」
お見舞いに行く度にどんどんやせ細っていくというのに、佳苗は私の顔を見る度決まって繰り返した。
私には元気を出せ、と言い続けた癖に、自分は一度も元気を取り戻す事はなく、この世を去って行った。
その佳苗が、あの世からあのおばあさんにお願いしてくれたというのだろうか。
おばあさんが消えてほどなく、リンコーンとスマホが鳴り、画面を立ち上げた私はメッセージアプリに表示された名前に心臓が飛び出るほど驚いた。
それは文哉君からの、デートのお誘いだった。
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