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『ぶらりグルメ旅エクストラ! 今日は漫画家の余所周太郎先生が、下町庶民の味をたずねてやってきました』
妙に間延びしたナレーションのあと、グレンチェックのハンチング帽をかぶった男が、オレンジと白の縞模様のひさしの下で立ち止まる。
『ここ良さそうだな〜。ちょっとレトロなたたずまいでね。なになに? 今日の日替わりはブリ照焼き弁当ですか。お弁当屋さんなのかな? 入ってみましょうか』
ごめんくださーいと店のショーケース越しに声をかける男に対応したのは、不自然にカラの弁当容器を掲げて、顔を隠す店員だった。
ハンチングの男はチラッと不安そうに振り返って、カメラの向こうのスタッフに視線を流す。しかし続けるように指示でも入ったのだろう。顔を引きつらせながらも、その不審な店員ににこやかに話しかけた。
『今日の日替わり弁当はこれですか? いやボリューム満点で美味しそうですね』
『……はい』
男はショーケースを覗きこむが、店員はいまだ顔を隠したままだ。
『建物も年季が入ってますけれども、このお店は昔からここでお弁当屋さんされてるんですか?』
『……はい、祖父がはじめました……』
顔を隠していても、聞かれたことには答えるらしい。
『お祖父さんが、ということはあなたが三代目になるんですね? お若いのに店を手伝われて』
自分にズームしたカメラを目ざとく察して、店員が素早くその方向に弁当容器をかざす。何があっても絶対に顔だけは映りたくないという意思がすごい。
『はい。でも昔から店の手伝いをしてたんで親父の味は守ってますし、改良も加えているので味には自信があります。全部手作りでやってます』
『ほぉー勉強家なんだね。ところでお兄さん、きれいなお顔してるし少しテレビに映ってみない?』
『…………』
『ダメ? ははっ、恥ずかしがり屋なんだねぇ。イケメンなのにもったいない。……じゃ、お邪魔しました』
『え? あ、あの、味見してっ……』
店員が何かを言おうとしたが、ハンチングの男は軽く頭を下げてあっさり店を出る。それきり場面は切り替わってしまった――。
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