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「良かった、やっぱりいたんだ。ごめんな、こんな遅い時間に……」
「ううん。あ、中入る?」
うん、とうなずいて、イチスケさんは窮屈そうにシャッターを潜り、僕が開けた引き戸の中へ入ってきた。
ちらっと見た時計はもう真夜中を指している。いつも来るのは店が開いている時間なのに、どうしたんだろう? 気になるが、イチスケさんは突っ立ったまま、なかなか口を開かなかった。
「……どうしたの? 明日会社でしょ」
「まぁね」
「まだ寝なくて平気なの?」
「……うん」
ぽそぽそと返される言葉は元気が無い。本当にどうしてしまったんだろう? いつものイチスケさんらしくない。
「あれって……」
イチスケさんが見つけたそれを見て、僕は苦笑いを浮かべる。古びた店の壁に今日追加されたもの。
「ああ、はは。母ちゃんもサインもらったんだって。いつの間にって感じだよな」
「……うん」
大騒ぎしていた母ちゃんの姿を思い出すと笑ってしまう。店のどこに飾るかでしばらくドタバタしていたっけ。そうして一人でにやにやしていたら、ふと影が差した気がした。顔を上げると思わぬ近さにイチスケさんが立っていた。
「イチスケさ……」
何? と聞く間もなく僕の唇はイチスケさんに塞がれていた。
軽く腰かけていた商品陳列用の机が、押されてガガッと大きな音を立てる。
「うっ……んっ……」
のしかかる重さが僕を拘束する。とっさに右手で姿勢を保ち、驚いて彼の胸に置いた左手はイチスケさんに掴まれた。
彼の唇は最初から遠慮無く僕のそれを覆うと、準備の整わない僕をこじ開ける。入りこんだ舌が僕のを捕食するみたいに巻きこんで、きつく食まれた。
初めから激しい口づけだった。
だけど僕も、すぐに夢中になった。
ぬるぬるで気持ちのいいイチスケさんの粘膜をうっとりと追いかけ、擦りつけて堪能する。張りのある唇からあふれる唾液をすすり、その甘さに感じ入ってこぼれる吐息で彼を煽る……。
もっとすがりついて思う存分したい。両手がふさがっていて動かせないよ。もどかしい……だけど、それも……すごく興奮する……。
彼は気づいているだろうか? 我慢のできない僕の股間はもう張りつめている。密着して互いちがいに絡む足を、甘えるように滑らせた。そしてイチスケさんのそこも固く熱くなっているのを感じたとき、腰からじんとしびれて力が抜けた。
「はっ……」
こぼれた声と同時にまた僕自身の先が湿っていく。
直接触ったらもっと気持ちいいのにな。自ずとそこに擦りつけるように、僕は腰を揺らめかせていた。
「んっ……。凛久っ」
音を立ててキスをやめたイチスケさんが、強い力で僕をかき抱く。
彼の匂いに包まれて、僕は恍惚とした。
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