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日曜午後三時のリビングにて
「あ―っ、はっはっはっはっ、ひでぇ! 腹いてー!」
「ひひっ、凛久、どうしたこれ? ふひっ、あはははっ!」
この兄弟、そんな笑うか? 容赦なさすぎじゃねえ?
雄太は床に寝転んで足をバタつかせているし、イチスケさんも頭を抱えて肩を震わせている。僕は抱えたクッションにふてくされた顔を乗せて、うらめしくふたりを見ていた。
ここは家から徒歩一分の幼なじみの家のリビングだ。日曜の午後三時。まったりした時間に放送されているよくある旅番組を一緒に見るために、僕は遊びに来ていた。
「え、え? これだけ? けっきょく凛久の顔映ってねーし、ていうか普通に事故でしょ? よく使ったな。テレビ局のやっつけ仕事すげーわ」
笑いすぎて流れた涙を目じりにひっかけたまま高速でスマホをいじっている雄太は、たぶんSNSにでも面白おかしく書きこんでいるんだろう。僕のスマホにもさっきから通知を知らせる表示がいくつも流れている。少ない知り合いが、ここぞとばかりに連絡してきているに違いない。
くそっ、やっぱりやめときゃ良かった。店の宣伝になるならと突然来た撮影にも頑張って協力したのに、けっきょく笑いものになるだけだったじゃないか。黒歴史がまた増えたぞ!
ひどい後悔で泣きそうになってクッションにぐりぐりと顔を押しつけていたら、頭の上に大きな手が乗った。ポンポンと跳ねるその手は優しい。
「ごめんごめん。笑って悪かったな。そんなに映りたくなかったんなら断れば良かったじゃないか。書かされたんだろ? 承諾書みたいなの」
「……必死だったから、良くわかんないままサインした……」
「凛久ーっ。しっかりしてくれ!」
あきれた顔のイチスケさんに頭を揺らされて視界がぐらぐらする。横目でうかがうと彼は、情けない顔の僕を微笑んで見ていた。
「大丈夫だよ。一生懸命お店のこと伝えようとしてたのはわかった。弁当も美味しそうだなって思ったよ」
「……本当に?」
「もちろん」
イチスケさんは僕の肩に手をまわし、励ますようにきゅっと力をこめた。
それだけで僕の胸はきゅんと高鳴る。顔を見合わせたら嬉しさがこらえきれなくて、火照る顔でだらしなく笑った。
――イチスケさん。心の中でそっと呼ぶ。
「なに?」と、まるで聞こえたように言う彼に「何でもない」と返したら、幸せすぎて泣きたくなった。
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