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「俺ね、修一さんのこと仕事の上では尊敬してるし、いい先輩だって思ってる。でも、それとは別のところで修一さんのことが可愛くてしかたがない」
あまりに思いがけない言葉に、修一は腕の中で目を見開いた。
「なんで男の人を、それも職場の先輩で五つも年上の人をこんなに可愛く思うんだろうって、ずっと不思議だった。可愛いだけじゃなくって、修一さんの側ってすごく居心地がよくって、修一さんが俺の家にいる時間がすごく好きなんだ。修一さんが鞠花の隣にいる姿を見てると、欠けたものが埋まったようで、安心するっていうか。なんだかそれがすごく自然な感じがして……。修一さんが他の人に触られると嫌な気持ちになるし、一体、この気持ちはなんなんだろうってずっと考えてた」
難しい言い回しなんてひとつもないのに、航の言葉がまるで頭に入っていかない。理解することを心が拒否している。
そんなことがあるはずない。
幻聴か、じゃなかったら夢を見ている。夢だとしたらとても残酷な夢だ。
目覚めたときの絶望が怖い。
「この間、修一さん、初めて俺の名前を呼んでくれたでしょ? 俺、あのとき凄く眠くて、現実だったのか、夢だったのか、ずっと曖昧だったんだけど。あれが現実にあったことなら、修一さんはひょっとしたら俺のこと好きなのかも、って思って」
だって、指が震えてたから、と航は続けた。
「だったら、凄く嬉しいな、って思った。だから、あの時のことをずっと確かめたかったんだけど、いざ口にしようとするとなんか恥ずかしくって」
「押井……」
「下の名前で呼んでくれないの?」
航は背中に回した腕を緩めると、修一の両腕をそっとつかんで顔を上からのぞきこんだ。
「それとも、あれ夢だった?」
修一は魅入られたように航の双眸を見つめていた。
踵に感覚がない。浮遊感が全身を包みこむ。
目の前に差し出されているものが信じられない。
同情してくれているんだろうか。物欲しげに見つめていた修一を哀れんで、束の間の幸福感を味わわせてやろうと、そう思っているのだろうか。
「――夢じゃない」
掠れた声で呟いいた途端、修一はふたたび航の腕に抱き竦められていた。
「好きだよ。……きっともうずっと前から修一さんのことが好きだった」
耳許へ押しつけるように囁かれた言葉に神経が甘く溶けて、目の前の体に縋りつく。
航は力の抜けた体をしっかりと抱きとめてくれた。
(いまこの瞬間、死んでしまえたらいいのに)
泣きたいほど幸せで、なのに、薄暗い物悲しさが心をひずませていく。
気まぐれは長く続かない。
瞬きの間に終わるだろうと、修一はわかっていた。
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