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修一はスロープの奥にある金属のドアへ歩いていく。
ドアには『関係者以外立入禁止』と書かれた紙が貼ってある。この先は動物園のバックヤード――つまり舞台裏だ。
バックヤードに入ると、修一は隔離中のペンギンが入れられているケージへまっすぐに向かった。
中をそっとのぞきこむと、二羽のアデリーペンギンが視界に映る。
一羽は小石で作った巣の上へ腹ばいになり、もう一羽はそれへ寄り添うように立っている。仲睦まじい二羽のペンギンの姿に、自然と柔らかな笑みが浮かぶ。
アデリーペンギンはペンギン科の中では比較的小柄だ
首もとから背中にかけては漆黒で、腹は真っ白。ピンク色の足と目の周りを縁取る白い羽毛が愛らしい。
修一はこの二羽のペンギンを生まれたときから知っている。
名前はソルとテラ。ラテン語で太陽と地球。
対となる名前だが、この二羽は兄弟というわけじゃない。生まれた時期がほぼ同じだったため、対になる名前がいいだろうということで、応募の中からこの名前が選ばれたのだ。
テラのほうは母鳥が子育てをしようとしなかったため、修一とそのときペンギン担当だったベテランの飼育員が手ずから育てた。
苦労しただけに成鳥になった姿を見ると、いまだに感慨深いものがある。
ソルとテラは子供のころからつがいのように仲がよかった。いや、『つがいのよう』ではない。彼らは雄同士でありながら『つがい』だった。
他の雌には見向きもせず、常に二羽で寄り添いあっている。
別段めずらしいことではなく、同性間でつがいやそれに準じた関係になるのは動物たちにはよくあることだ。その理由や原因はまだはっきりわかっていないようだが、千五百種の動物において同性愛的行動が確認されているのは事実だった。
ペットは飼い主に似るというが、
(こいつらは俺に似ちゃったのかも)
修一はときどき苦笑交じりにそう思う。そして、羨ましいな、とも。
恋する相手と結ばれることは死ぬまでない。そのことを修一はよく知っていた。
ゲイだと自覚したのは中学生のとき。
ひとつ上の先輩を見るたびに鼓動が狂うようになり、それが恋だとやがて気づいた。ただ見つめるだけの恋だった。気持ちを伝えられないまま初恋は終わった。
男と関係を持ったことは何度もあるが、好きな相手と結ばれたことは一度もない。きっとこれからもないだろう。
修一の好きになる相手はノンケばかりで、好きだと告げたことさえ一度もなかった。
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