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切ないような、温かいような、そんな気持ちを持て余す崇の傍らにヒラリと玉藻が舞い降りる。
結局玉藻は青年から五百円玉を押し付けられたようだ。
確かに貨幣価値としては五百円の方が高いのだが、玉藻はやはり五円玉が良かったらしく、眉間にはクッキリとシワが刻まれている。
「もうあの子は大丈夫じゃ。この社に父御がおるというのは嘘じゃが、ずっとあの子を見守っているというのは真であるゆえに」
母子の姿を見守る玉藻の髪が、夕暮れの風に柔らかく揺れる。
表情は険しいままだが、母子を見守る玉藻の瞳は母のように優しかった。
「さて、タタリ。今日の目安箱改めをせぬままここへ来てしまった。早く帰って気分を仕切り直そうではないか」
その瞳が、今度は崇へ向けられる。
深い漆黒の瞳の底で、誘うように金の燐光が舞った。
「だから、俺の名前は祟じゃなくて崇だっつーの!」
いつもの苦言を呈して、玉藻稲荷へ帰る一歩を踏み出す。
暮れなずむ空には、気の早い一番星が輝いていた。
【お狐様とてるてる坊主・了】
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