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4品目 半信ハンキ
「ではまた、ご連絡差し上げます」
ネクタイを締めて髪を整えた三澤は、恭しく一礼をして出て行った。
ご丁寧にチェーンまでかけた浩美は、息もつかずに枕カバーを取り替えた。
どうせ夫は今日も呑んで帰ってくるのだ。こんな小細工をする必要を感じない。
「いつまでこんな事をしてるんだろ」
コーヒーカップを二つ洗い、チェーンロックを外す。
読みかけのミステリーを開いて、ソファで微睡んだ。
夢の中でパトカーのサイレンが鳴る。
家に大量の三澤が押し入ってくる。
浩美は必死で寝室のドアを押さえる。
もう限界かな、と諦めかけたところでメールの着信音が鳴り、目を覚ます。
顔を洗って髪の毛を梳かし、鏡を見ながら気怠げな主婦の顔を作る。
「ただいまあ」
だらしない夫の声はいつもより明るかった。
「おかえりなさい、いい事でもあったの?」
「うん」
浩美が顔を上げると、そこには拓巳の無防備な笑顔があった。
「弁当が、半額だった!」
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