意味のない仕事

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意味のない仕事

俺が南浦和支店の支店長に就任してから、早くも1か月が過ぎた。 俺の就任に対して、顧客も好意的に受け止めてくれたようだし、 不安そうな目をしていた職員達も、だいぶ慣れてきたようだ。 肝心な酒井浩の放逐を実行に移したいのだが、日々の業務の他に、 顧客への挨拶回りなど、日々目まぐるしく動いており、 なかなかその事だけに集中することができないでいた。 ただ、まだ時間はたっぷりある。酒井のミスやあらを探し、 追い込んでいくのだ。 そんなことを考えていた、ある日の閉店後のことだった。 「失礼します!」と言い、職員の一人が目の前に立った。 その人物は、入職7年目の宮本伸之(みやもとのぶゆき)。この南浦和支店が2店舗目で、 営業係の中でも、エースと呼ばれている存在だ。 その宮本が、俺の前に直立不動で立ち、顧客の定期積金(ていきつみきん)の中途解約の依頼書に、承認印を押すよう求めてきた。 定期積金とは、毎月決まった金額を、最短6カ月から最長5年で積み立てる預金のことである。信用金庫では、月に一度、顧客の自宅に訪問し、毎月の積み立てを集金している。 この埼玉県南信用金庫でも、定期積金の集金から、他の取引を推進できる機会となることから、積極的に獲得するよう指示していた。 いくら顧客の預金とはいえ、中途で解約するのは気分がいいものではない。俺は宮本から定期積金の通帳と、中途解約の依頼書を受け取り、 承認印を押すために中身を確認した。 すると中途解約の理由の欄に納税とあった。 定期積金の契約の内容は、毎月10万円を5年間(60回)積み立てる内容となっている。それをちょうど、1年(12回)で解約するということであった。 俺は不思議に思い宮本に聞いた。 「何か緊急にお金が必要になったのか?」 宮本は焦ったような顔をして、取り繕うように言った。 「支店長大丈夫です。まったく同じ契約内容で、 申込書をもらっておりますので。」 と、新たな定期積金の申込書を見せてきた。 それは、解約する内容とまったく同じ、5年満期の申込書だった。 俺はイラついて強い口調で、宮本に言った。 「そんなこと聞いているんじゃない。この解約する定期積金の資金使途が、どうして納税のために使用するのだと聞いているんだ!税金であれば、毎年支払う時期が変わらないのだから、その時期に満期がくるように積み立てればいいだろ?わざわざ5年満期のこの定期積金を、途中で解約しなければならない理由が、何かあったのか?と聞いてるんだ。」 「すいません!お願いします。」 宮本はそれしか言わず、承認印を押せと、迫ってくるだけだ。 その解約の依頼書を見ると、副支店長の酒井の印が押してあった。 ということは、酒井はこの解約を承認したことになる。 宮本では埒があかないので、内線で2階にある営業室から酒井を呼んだ。 ほどなく酒井が降りてきて、宮本の隣に立った。 「酒井君。君は何故この定期積金の中途解約を承認したんだ?」 俺は聞いた。 酒井は困ったような顔をしながらも、事情は知っているようで、 意を決したように、切り出した。 「元々この定期積金は、納税用でした。」 「納税用?だったらなんで5年の契約期間なんだ!?」 俺は、さらにイライラしながら聞く。 すると、酒井は落ち着いた口調でその理由を語り始めた。
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