総代会

1/2
前へ
/41ページ
次へ

総代会

私が2度目の理事長に就任してから、3年の月日が経過していた。あの度重なる問題を解決してから、営業課員のノルマも撤廃したので、それ以降は、お客様に迷惑を掛けるような行為は報告されていない。 今日は午後から行われる総代会を前に、発表内容などの最終的な確認を行っていた。 今年の総代会も、何事もなく無事に終わるだろうと私は考えていた。今年の業績は、預金残高、融資残高ともに僅かだが減少している。収益については、2期連続で減益となったものの、適正な利益は確保できた。今日集まる出資者への配当も、例年通り5%を維持できている。 そもそも信用金庫は、株式会社とは違う。相互扶助の精神に基づいて設立されているので、必要以上に利益を追求する必要はない。適正な利益があればいいのだ。 私は、預金残高・融資残高の2期連続の減少に、若干の不安は感じていたが、この埼玉県南信用金庫の規模からすれば、大きな問題ではない。3年前に解決させた諸問題が、お客様に迷惑を掛けていたことを思えば、あまり気に留める必要もないと感じていた。 また人事部長からは、数字の撤廃を掲げてからは、離職率が大きく改善したとの報告もあった。入職年度によっては、入職してから10年以内に、約半数が退職した年代もあり、職場で同期と出会うことが難しいという、寂しい年代の職員もいる。 それだけ数字の達成のために、心を痛めていた職員がいたということであろう。その人事部長の報告は、私の決断が間違っていないことを証明したようで、非常に嬉しかった。 午後からは会場に、続々と各支店の総代の代表が集まってきた。100人近く集まる予定になっている。私は会場の入口に立ち、集まってきた総代の代表に挨拶して回った。 副理事長から開会の宣言があり、今年度の業績について、私が壇上に上がり説明した。また新たな人事発表なども行いながら、約1時間で予定していた内容が終わろうとしていた。 「ご提案、ご質問等ございますでしょうか?」 発表内容の全てを話し終えた私の後を受け、副理事長が総代に向かって問いかけた。 「よろしいでしょうか。」 会場の中から一人の男性が手を挙げた。 マイクを持った職員が、その男性の元へ近づいていく。 「蕨支店の総代の川島といいます。ご提案がありますが、よろしいでしょうか。」 「どうぞ、お願いします。」 司会の副理事長が、マイクを持った川島氏にどうぞと手で合図を送った。 川島氏は私の方に顔を向け、 「左近理事長の解任を提案致します。」と告げた。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加