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導く手
「理事長!失礼します!」
総代会の会場を後にし、本店の理事長室で片付けをしていると、総代会が終了した役員たちが飛び込んできた。
「理事長すいません。我々の力不足で・・・」
役員の一人が言うので、
「力不足だったのは私の方です。それで、次の理事長は誰が?」
私が聞くと、司会をしていた副理事長が、
「私が就任することになりました。」
と、申し訳なさそうな声で言った。
「後のことはお願いします。こんな形で終わってしまうのは残念ですが、そもそも3年前の役員会議で、「業績が落ちたら責任を取る」と言って、営業課員のノルマを撤廃したのは、誰であろうこの私です。言ったことの責任を取るだけです。」
と言って、私はカバンを持ち立ち上がり、理事長室から出て行こうとした。
「待ってください!理事長がいなくなると困ります!実は総代会が終わった後に、川島様とお話したのです。「まさか本当に解任されてしまうとは思っていなかった。」とおっしゃってました。本意ではないんです。だから!今からもう1度総代会を開く準備をして・・・」
「もういいんです!」
役員の1人が言う言葉を遮り、私は言った。
「川島様の本意ではないことくらい分かります。あの方は本当にこの埼玉県南信用金庫のことを心配して、あのような提案をなされたのです。」
「私は3年前に井川理事長に懇願され、理事長に就任しました。その時に自分に誓ったのです。もっともっとお客様の「ありがとう」という言葉を聞けるように頑張ろうと。」
「しかし、今日の総代会で大勢のお客様が、当金庫に対して不満を感じていたことが分かりました。それは現場の状況を知らなかった私の責任です。そのことについて責任を取らなければならないのです。」
そこまで言うと、もはや私の意志を覆すことができないと感じたか、役員達からは引き止める言葉が出なくなった。
「あとはよろしく頼みます。」
私は居並ぶ役員を前に、軽く頭を下げ、理事長室を出て行った。
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