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決意
「大丈夫かね?左近君。いや~しかし、今回は本当に大変だったね。でも君のお陰で、大蔵省の認可も取れた。きっとお客様も喜ぶと思うぞ!この宝くじ付き定期預金は!」
井川理事長の口からは、前回とまったく同じセリフが出てくる。
「左近君!これで君は、私の後継者だ!今後は私とともに、この埼玉県南信用金庫を大きくしていきましょう!」
(まったく同じだ)私は適当に相槌を打ち、理事長室を出たあと、肖像写真の飾られている会議室に向かった。
初代理事長から井川理事長までの、3枚の写真が飾られている中で、中央に飾られている初代理事長、神明万次郎の写真を見つめていた。
(やはりこの人で間違いない。前回も今回もこの人の手によって、私は過去の世界に連れて来られている。しかし何故私なのですか?私は2度も解任されたんですよ!あなたはもう1度やり直せと言うのですか?)
心の中で訴えても、写真の中の初代理事長は何も変わらず、ただ正面を見据えているだけだった。
私は自分の役員室に戻り、気分が優れないという理由で、早々に帰宅する用意をした。確認をするために。
役員車に揺られ、外の景色を見るが、3年後とあまり変わっていない。しかし自宅に帰ると、中学生になっていた孫は、小学生に戻っており、義理の息子の剛は、人事部の所属だった。
私はこれからのことを考えるために、早々に自室に籠もった。
私は一人自室の机に座り考えていた。
(これはもうどう考えても、また過去に戻ったことで間違いないだろう。そしてもう1度私にやり直せということだ。)
私は覚悟を決め、そして2度解任された理由を思い返していた。
(定期積金・年金・出資金と、お客様に迷惑を掛けていた行為を、辞めさせたことについては間違っていないはずだ。1度目に解任された時は、役員会議という身内からの提案だったが、今回はむしろ残ってくれと請われたことからも、職員達が私に不満を感じているということはないだろう。)
(そうなるとやはり川島氏が総代会で批判した、営業課員達が仕事に手を抜いているという指摘だ。ノルマを撤廃したことにより、私はお客様に対して、もっと丁寧に接して仕事をしてくれているものと思い込んでいた。だが現実は、職務の怠慢による業績の悪化だった。あれでは預金量も融資量も減るはずだ。)
(お客様の満足度も高く、職員達の意識も高く、業績も良い)
この全てを満たすためには、私はどうすれば良いのか、その日は眠れない夜を過ごした。
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