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解任そして追放・・・
「土屋理事長及び左近会長の解任を提案致します!」今度はさらに声を大きくして、筆頭専務の酒井浩は、まっすぐにこちらを見つめてきた。
「何を馬鹿なことを・・・」立ち上がった俺を制するように、酒井は続ける。
「解任理由は、左近会長と土屋理事長による、当金庫の私物化。公共の金融機関でありながら、たいした実績を上げていない義理の息子を理事長にすえ、一族で支配するなど言語道断であります。」
「また我々の収益の源泉でもある融資量も、年々減少しております。これは不良債権を出さないという経営方針から、積極的な融資を行わないという姿勢によるものです。」
「このままでは地域経済の活性という信用金庫の使命を、果たすことができないと危惧するものです。よって左近会長と土屋理事長には退任して頂き、新たな体制のもとで、信用金庫の使命を果たすべきだと考え、本案をこの理事会に起案するものです。」
静まりかえっている会議室に、酒井の声が響き渡った。
俺はすぐさま言い返す、
「お前は何を言ってるんだ!この俺が、この信用金庫にもたらした功績を知らないはずがないだろう!宝くじ付き定期預金を、当時の大蔵省と闘って承認してもらえたおかげで、この信用金庫も有名になり、ここまで大きくなったんだ!」
「確かに、融資量は減っているかもしれんが、不良債権がないからこそ、金融庁などに頼る必要もなく、また天下りで役に立たない官僚も来ないから、今のこの信用金庫があるんだ。むしろ融資量が減っているのは、貴様等の努力が足りないからだろ!恥を知れ!」
と一気にまくしたてた。
「理事長!お前も何か言え!」と俺は義理の息子の理事長を睨んだ。
「あっ・・・えっ・・・」と言ってオロオロするばかりで、理事長の剛は何も言えなかった。
「会長!お静かにお願い致します。」今まで覇気のなかった、副理事長の宮代雄一が声を大きくして言い放った。
「失礼ながら左近会長におかれましては、会長職ではありますが、本理事会においては、アドバイザーという立場でご出席いただいているだけであり、議決権はお持ちでございません。酒井専務のご提案を採決致したく、今暫くお待ちください」
「グッ・・」と俺は何も言えず、席に着いた。
(確かに俺は会長職に就いたとき、理事会の決定事項に従うということで、理事会の議決権は放棄した。しかしまさかこんなことを・・・)
「それでは、酒井専務より起案がありました、土屋理事長及び左近会長の解任動議を決議致します。」
宮代副理事長は一呼吸置き、改めて周りを見渡してから、落ち着いた声で言った。
「土屋理事長と左近会長の解任に、賛成の方はご起立ください」
真っ先に起案者の酒井専務が立ち上がり、理事長と門瀬以外の役員が、一斉に立ち上がった・・・
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