やり直し

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やり直し

南浦和支店の支店長に就任してから、早くも1ヵ月が過ぎた。 私は諸問題の解決にはすぐに動かなかった。前回と同様に時間が流れるなら、1ヵ月が過ぎたころに、定期積金の中途解約に、営業課員の宮本君が来るはずだ。それまでの間、日々の業務の他に、顧客への挨拶回りなど、日々目まぐるしく動いていた。 そしてその日はきた。ある日の閉店後のことだった。 「失礼します!」と言い、職員の一人が目の前に立った。 宮本伸之(みやもとのぶゆき)君が、直立不動で、私の前に立った。 (やはりきた!前回と同様に時間が流れている。) 彼は定期積金の中途解約の依頼書に、承認印を押すよう求めてきた。 私は宮本君から定期積金の通帳と、中途解約の依頼書を受け取り、 承認印を押すために中身を確認した。 するとこれも前回と同様に、中途解約の理由の欄に納税とあり、 定期積金の契約の内容も、毎月10万円を5年間(60回)積み立てる内容で、それをちょうど、1年(12回)で解約するというまったく同じ内容であった。 私は試しに宮本君に聞いてみた。 「何か緊急にお金が必要になったのかな?」 宮本君は焦ったような顔をして、取り繕うように言った。 「支店長大丈夫です。まったく同じ契約内容で、 申込書をもらっておりますので。」 と、新たな定期積金の申込書を見せてきた。 それは、解約する内容とまったく同じ、5年満期の申込書だった。 (あの時と返答も同じだ) 私はあえて分かっていながら、しかし丁寧に宮本君に言った。 「そんなことを聞いているのではありません。この解約する定期積金の資金使途が、どうして納税のために使用するのですか?と聞いているのです。税金でしたら、毎年支払う時期は変わりません。その時期に満期がくるように積み立てればいいのですから。わざわざ5年満期のこの定期積金を、途中で解約しなければならない程、お客様にお金が必要なった理由は何ですか?と聞いているんですよ。」 宮本君は、何か言いたげにしていましたが、 「すいません!お願いします。」 としか言わず、承認印を押してくださいと、迫ってくるだけでした。 私は酒井君からではなく、宮本君から本当のことを聞きたかったのですが、 まぁ仕方ありません。 私は中途解約に承認印を押している酒井君を呼びました。 ほどなく酒井君が降りてきて、宮本君の隣に立った。 「酒井君。君は何故この定期積金の中途解約を承認したんですか?」 あえて私は聞きました。 酒井君は困ったような顔をして、それから意を決して本当のことを話しました。
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