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「元々この定期積金は、納税用でした。」
「納税用ですか?だったらどうして5年の契約期間なんですか?」
と私が尋ねると、
「元々この定期積金は、1年で契約されておりました。ですがある時から、5年契約の定期積金になり、1年で解約するということを繰り返すようになりました。もちろん、それはこの隣にいる宮本君の時からではありません。前担当者、さらにその前なのかは分かりませんが、とにかく彼のせいではありません。」
部下を庇う酒井君に、あえて聞きました。
「どうしてそんなことをするのですか?」
「申し訳ありません。数字のためです。満期額を減らす訳には、どうしてもいかず、私も承認しました。」
と言い酒井君は頭を下げた。
「そうですか・・・数字のためですか。このようなお客様の意向を無視した定期積金は、今後作成しないよう営業課員の皆さんに伝えてください。数字については私が責任を負います。宮本君もこんな意味のない仕事はしたくありませんよね?他にもこのようなお客様の意向を無視した定期積金があるなら教えてください。」
私は諭すように2人に言った。
するとしばらく考えていた酒井君が、「すこしお待ちください。」
と言い、金庫の中から、定期積金の口座の資料表を持ってきて、
「これをご覧ください。」と、入金が遅れている口座や、満期が過ぎても解約されていない口座の一覧を、私に見せてくれました。
私はしばらくそれを見て、少しがっかりした様子を見せて、
「ありがとう酒井君。よく教えてくれました。この問題は私に預からせてください。私は10年以上も支店を離れていたので、まったく現場の状況を分かっていませんでした。これでは専務失格です。ですから定期積金の他にも、お客様に迷惑を掛けていることや、数字のためだけの意味のない仕事があるようでしたら、教えてください。」
と、軽く頭を下げ言った。
少し驚いた表情をした酒井君は、
「分かりました。それではこの定期積金の件はお願い致します。」
と言い、席に戻って行った。
その翌日の閉店後だった、酒井君が失礼します!と言い、
私の前に立った。顔を上げると手には資料を持っていた。
「こちらをご覧ください。」と、手に持っていた、
年金の受け取り口座の一覧表を私の机に置いた。
そして、口座番号と振込額などが記載されている欄を手で示し、
「問題はこれです。」と言って、
振込額の記載されていない口座番号が、何ページにも渡って記載されているページを見せてくれた。
私があえて、「これは年金の登録はされていますが、振り込みがないということですよね?」と聞くと、酒井君は、
「はいその通りです。これも数字のためです。営業課員には当金庫で年金を受け取る登録件数を、ノルマとして課しております。59歳の誕生日を迎えた月から、営業課員にとって、そのノルマを達成するための見込み客となってしまうのです。例え年金を60歳から、受け取らなくてもです。」
「年金の受け取り口座が増えたと喜んでも、振り込みがなければ意味がありませんね。」と私はがっかりしたように言い、さらに、
「そうだった!私の妻の手芸教室の先生が、当金庫に年金の受け取りを移してくれると言っているんだが、どうなってますか?」と聞いた。
酒井君に名前を言うと、その資料から該当する名前を探し出し、
既に当金庫で1回年金を受け取った実績があるが、
その後の振り込みがないことを調べてくれた。
私は酒井君に礼を言い、この件も私が預かり、営業課員には1回だけの振り込みとか、登録してもすぐに振り込みがない年金の獲得はしないように指示をした。
(あとは出資金だけだな)
私は全ての問題を一度に理事長に報告するつもりでいた。
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