酒の旨い夜

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酒の旨い夜

役員会議でノルマのために、お客様に迷惑を掛けていた行為を、辞めさせることが決定し、私も南浦和支店の支店長として、他の役職員の見本となるべく、日々先頭に立ち、奮闘していた。 営業課員達もノルマには苦労している。それは当然だ。あれらの行為は、 いわば楽をするために行ってきた行為なのだから。実のある数字を獲得するということは、本当に大変なことなのだ。 私も課員だけに任せることはせず、できるだけお客様のもとを訪問し、ともに汗を流していた。 ただその大変さの中にも、日々地域のお客様と触れ合い、課員達と苦楽を共にすることは、本部にいるときには体験できないことで、最近では楽しいとさえ思えるようになってきた。 それはある月末の閉店後だった。支店の数字は基本月単位なので、金融機関にとっては、月末は締日でもあり、とても重要な1日である。 営業課員3年目の古田君が、私の席の前に立った。 「支店長失礼します!これから年金の獲得のために、お客様のところへ訪問させてください。年金の数字があと1件で達成できるので、見込み客をあたらせてください。」 と、午後4時前くらいに、外訪の許可を求めてきた。 通常この時間帯は、営業課員も外回りから戻り、集金金額の確認や伝票処理を行っている。店内の業務も、月末の預金残高などの最終的な数字を確定するため、締め上げ作業を行う時間である。 しかし確かにこのままでは、年金については1件足らず、ノルマが達成できない状況であった。古田君は責任を感じて、自分がなんとかしなければと思ったのでしょう。 すると、「私も同行致します。」と上司の酒井君も隣に立ち、同じように外訪の許可を求めてきた。 「すいません。こんなギリギリになる前に、獲得しようと動いてはいたのですが、他の課員達も見込み先を全て断られている状況でございまして、私も古田君をサポートするので、1時間だけ外訪させてください!」 と、酒井君も必死な顔で懇願してきた。 「そうですか。では私が同行しましょう!支店長の私が行けば、必ず獲得できます!」 と私は2人に言い、店内の業務課長に17時までには戻るから、それまで最終的な締め上げを待つよう指示をした。 副支店長の酒井君に見送られ、私と古田君は自転車で、見込み先のお客様の家へと向かった。
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