酒の旨い夜

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次の見込み先は大友様というお客様で、老人ホームに入居している奥様のお母様の年金を、当金庫で受け取って貰えないかと、お願いしているとのことだった。 先程の安藤様のご自宅から、自転車で5分程のところに、見込み先の大友様のご自宅があった。 インターホンを鳴らすと、嬉しそうな顔で大友様の奥様が出てこられた。 しかし支店長の私の顔を見ると、すこし驚いた顔をされ、 「あら、この間集金はしたわよね。何かありました?」 と聞いてこられた。 古田君が、 「先日お願いした件で改めてお伺いしました。奥様のお母様の年金ですが、 是非とも当金庫で受け取って頂けないでしょうか!お願い致します。」 と言って、先程よりも必死になり、大友様の奥様にお願いした。 私も「是非お願いします。」と言い、続いて大友様に頭を下げてお願いした。 それを聞いた大友様はしばらく考えていた様子で、 「母の老人ホームのお金が、今の年金を受け取っている通帳から引き落としされているのよね、でもね他でもない古田君がそこまで言うなら、移してもいいかなとは思うんだけどね。」 大友様は当金庫で受け取ってもいいと言うので、 私は古田君と2人で「是非!お願いします!」と、2人揃って頭を下げた。 すると大友様が、 「移してもいいんだけど、一つ条件があって・・・」 私と古田君はその条件を聞き絶句した。 その後少し話をした後、大友様のお宅を辞去し、 次の見込み先へと向かった。 次の見込み先のお客様でも、年金はやんわりと断られたが、今度、孫のための積み立てを増やすということで、我々も引き下がって支店に戻ってきた。時間は予定をオーバーして、17時半になろうかとしていた。 支店に戻ると、私は自席の前に立ち、 「いや~私が交渉したけど年金は取れなかった。みんな待っててくれたのに申し訳ない。締め上げをしてもらって、帰れる人から帰ってください。」支店職員の前で謝った。 すると酒井君が私の前に立ち、 「支店長ありがとうございました。」と頭を下げ言うので、 「いや。私の力不足で申し訳ない。しかし古田君は本当に良くやってくれている。気落ちしないようフォローしてやってくれ。」と言った。 締め上げ作業も終わり、続々と職員達が帰宅するなか、同行訪問した古田君が席の前に立ち、 「支店長。今日はありがとうございました。」 と礼を言ってきたので、私はふと今日が金曜日であることを思い出し、 「どうだ?これから飲みに行かないか?」 と古田君を誘ってみた。 すると、「是非!お願いします!」と笑顔で古田君は返事をしてきたので、 「では、ちょっと待っててくれ」と表で待つように言い、 内線で酒井君にも古田君と飲みに行くことを話すと、 「後から私も行きます!」と言うので、 先に2人で駅前の居酒屋に向かった。
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