酒の旨い夜

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古田君と2人で駅近くの居酒屋に入り、先に生ビールで乾杯をし、 しばらく仕事の話や、彼女がいるかなどの他愛のない話をしていると、 お店の扉が「ガラッ」と開き、遅れて酒井君が入ってきた。 追加で生ビールを注文し、揃ったところで、改めて3人で「お疲れ様でした」と乾杯をした。 注文した料理も届き、ビールも2杯目・3杯目と進んできた時、 「支店長!今日はせっかくご同行頂いたのに、私の見込みが甘くてすいませんでした!」 と、ジョッキを机に置き、両手を膝に置いて、古田君は真剣な顔で頭を下げてきた。 もうそんなこと気にしていなかった私は驚いたが、その隣に座る酒井君も申し訳なさそうな顔をしているので、 「いやいや今日の結果は残念ですが、古田君は一生懸命やってます。それは今日お伺いしたお客様の反応を見れば分かります。みんな古田君のことをお客様は気に入ってくれています。」と、私は本心からそう言った。 だが古田君は、「気に入ってくれていても、結果が出なければ意味のないことです。」と言うので、 私は古田君に聞いてみた。 「古田君は当金庫のお客様は、どの年代のお客様が多いと思いますか?」 突然の質問に戸惑っていましたが、 「そうですね・・・圧倒的におじいちゃんおばあちゃん・・いえ、高齢者の方が多いと思います。」 その答えに私は頷き、 「そうだね。おじいちゃんおばあちゃんが8割といったところでしょうか。 そのおじいちゃんおばあちゃんはね、君たちを見ているんです。」 「はぁ・・・見ている」 イマイチ質問の意味が分からないという顔をしているので、私は続けた。 「そう。見ているんです。でもそれは君たちを見ているようで、君たちだけを見ているわけではありません。君たちの姿を通して、自分たちの子供や孫の姿を見ているのです。」 「雨の中濡れながら集金に来てくれる姿、暑い中頑張って自転車を漕いでいる姿、そうやって頑張って仕事をしている君たちの姿を見て、(あぁ今頃、自分の子供もかわいい孫も、頑張って仕事をしているのかな)と想像しながら見ているんです。そして(子供も孫も頑張っているなら、自分達も頑張ろう)と、元気を貰えているんですよ。」 「一度君たちをそういう目で見てしまうとね、もうただの銀行員には見えなくなります。お客様にとって君たちは、もっと近い存在に思えてくるのです。」 「地域の活性化ということで、イベントやお祭りに参加することはとても重要なことだけど、一番大事なことは、一生懸命仕事をしている姿を地域のお客様に見てもらうこと。これが一番大切な事だと私は思うんだ。」 「だから古田君!地域のお客様に一生懸命働いている姿を見せてあげてください。そしてお客様に元気を与えてください。そうすれば必ずお客様は君に付いてくるから。いささか浪花節かもしれませんが、私はそう思うんです。」 語り終えた私の目をジッと見つめていた古田君は、 「はいっ」と、私の言葉を噛みしめるように頷いた。 その横で酒井君は小さく何度も頷いていた。 ビールから切り替えた、冷酒の入ったお猪口を私は一気に飲み干し、 「今日の酒は旨いな~」と言い笑った。 (本当に今日の酒は旨い・・・)と心の中でも思いながら。
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